Research Abstract |
本研究は,重度の成人性歯周炎で起きると考えられる菌血症が,脳血管疾患の発症に与える影響を調べることを目的として,高血圧症と脳卒中の素因を有するSHRSPラットに歯周病原菌を継続的に接種し,血圧上昇と脳卒中の発症率について分析を行った。歯周病原菌としてPorphyromonas gingivalisを,また,対照菌としてEscherichia coli菌体をそれぞれ培養後,生理食塩水に懸濁し,各ラットの尾静脈内および腹腔内から隔日に接種した。その結果,P.gingivalis接種群,E.coli接種群および菌非接種群の平均体重は,4週齢から8週齢まで増加傾向を示し,9週齢でプラトーに達した。なお,この間,各群の平均体重に著明な差は認められなかった。9週齢以降,脳卒中を発症した個体では体重の減少傾向を認め,11週齢以降では全ての群の平均体重は減少傾向を示した。収縮期血圧の平均値は4週齢から11週齢まで上昇し,12週齢でプラトーに達したが,各群間に有意差は認められなかった。SHRSPの各群の脳卒中発症の平均日齢は,菌非接種群77.5±0.6日,P.gingivalis接種群72.8±6.7日,E.coli接種群71.8±3.6日で,菌の接種によって脳卒中の発症が早まる傾向が認められた。各群のそれぞれ各1個体について,脳卒中発症が推定された後に尾静脈から造影剤を注入後,小動物用小型CTにて観察したところ,P.gingivlis接種群の個体においてのみ,出血班を確認した。また,発症時の症状については,菌非接種群ではすべての個体で体重減少もしくは前肢の麻痺,およびその両方のいずれかであったのに対し,P.gingivlis接種群およびE.coli接種群では,これらの症状に加えて立毛,過敏,不活発などの神経症状を示す個体が多く認められた。以上の結果から,Porphyromonas gingivalisおよびEscherichia coliなどのグラム陰性菌による頻回な菌血症は,血圧上昇には関与しないものの,脳卒中発症のリスクと,発症時の症状の重篤化を招く可能性が示唆された。
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