Research Abstract |
本年度は,歯科臨床に用いられているEr:YAGレーザー治療器を用いて,歯質表面にレーザー照射したときの温度計測を行った.コンタクトチップと呼ばれる接触端子を用いることから,接触端子透過後のレーザー透過特性やエネルギー分布を調べると共に,レーザー条件と歯質表面温度や窩洞体積との関係を調べた.その結果,レーザー照射時の歯質表面温度は50~220℃の範囲となり,歯質の主成分であるハイドロキシアパタイトの融点よりも著しく低いことがわかった.また,窩洞体積と表面温度に相関が認められること,注水の有無やアパタイトペレットとの比較から,Er:YAGレーザー照射時の窩洞形成能は,注水の効果よりもむしろ歯質内部の結晶水の影響が大きいことがわかった.さらに,レーザー照射時の表面温度が歯髄に与える影響を調べるため,有限要素法を用いた伝熱解析を行った.その結果,歯質表面で生じる温度は0.14mmの深さで常温に戻ることがわかり,レーザー照射に起因して生じた温度が歯髄に与える影響はほとんど無いことが明らかとなった. 加えて,レーザー照射時に生じる衝撃応力と殺菌との関連を調べるため,酸化チタン乳液中にNd:YAGレーザーを照射した時に生じる衝撃応力を測定する装置を製作し,同装置を用いて測定した.その結果,レーザー条件と誘起衝撃応力に相関が認められ,得られた衝撃応力は100~1100Paの範囲となり,歯質表面にレーザー照射したときと比較して5倍程度大きかった.また,レーザー照射にともなう酸化チタン乳液中の生菌数減少との関係も調べた.その結果,誘起衝撃応力の増加にともなって,殺菌効果が増大することが明らかとなった.これらの結果から,レーザー照射に起因して生じる殺菌は,生じる熱の影響に加えて衝撃応力による機械的作用も寄与していることが示唆された.
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