Research Abstract |
これまでに,歯周病原性細菌であるPorphyromonas gingivalisがコレステロール非依存性の血管内皮肥厚に関連している可能性を,細胞生物学的解析や分子生物学的解析によって明らかにした.さらに,大腿動脈内皮損傷マウスモデルにおいても,同様の可能性が示され,細胞の増殖や分化の制御を行うカルシウム結合タンパクであるS100ファミリータンパク関連の遺伝子の病変形成への関与が示唆された.本研究では,より多くのヒト大動脈瘤検体において,S100ファミリーのタンパクの発現状態を検討していくとともに,口腔におけるP.gingivalisの存在の有無との関連を追及することとした.対象は,これまでに蓄積してきた76症例からの大動脈瘤およびデンタルプラーク検体とした.まず,分子生物学的手法を用いて,これらの検体にP.gingivalisが存在するか検討し,P.gingivalisが検出された陽性群と検出されなかった陰性群とに分類した.その後,様々な臨床的指標や組織学的分析を行い,陽性群と陰性群との間で比較した.すると,P.gingivalis陽性群では,比較的遠位の大動脈における瘤形成が多いことや,冠動脈疾患や高血圧などの合併症が多いことが明らかになった。また,P.gingivalis陽性群の大動脈瘤検体では,陰性群と比較してS100A9タンパクの発現が有意に増大しており,脂肪細胞が少なく,増殖型の平滑筋が多く認められることが明らかになった.これらのことから,P.gingivalisの関連する動脈瘤形成は,通常のコレステロール依存性のメカニズムとは異なり,比較的遠位の大動脈でコレステロール非依存性の平滑筋増殖を引き起こしている可能性が示唆された.
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