Research Abstract |
統合失調症患者は,自己管理の低下や抗精神病薬の副作用等による口腔環境の劣悪性が指摘されており,口腔衛生の支援が必要とされている。また,統合失調症は治療が長期に及ぶため,長期入院患者の高齢化や退院遅延も問題になっている。近年,口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防,摂食・嚥下機能の向上,栄養改善等に有効であることが報告されているが,統合失調症患者に及ぼす効果は明らかにされていない。そこで本研究では,統合失調症で入院中の高齢患者に口腔ケアを施行し,その口腔環境に及ぼす効果について検討した。 慢性統合失調症のために札幌花園病院・精神科に入院している患者20名(男性10名,女性10名,平均年齢69.2歳)を対象とした。週1回・16週間の歯科医師による専門的口腔ケアを行い,口腔ケア介入前,介入8週後および介入16週後に口腔内診査,精神症状,生活障害,および抑うつ症状の評価を行った。また,唾液を採取し,各種唾液ストレスマーカーを測定した。 口腔ケア介入により口腔衛生状態,口臭,口腔乾燥などの口腔環境の改善を認めた。また,介入16週後において精神症状(陰性症状,総合精神病理)と生活障害(持続性・安定性)の有意な改善を認めた。唾液ストレスマーカーについては,介入16週後にアミラーゼ活性値が有意に減少した。 以上より,統合失調症患者への定期的かつ継続的な口腔ケアの介入は,口腔環境の改善のみみならず精神症状や精神的ストレスを増強することなく口腔環境を改善することが示唆され,口腔ケアの新たな有効性が示唆された。
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