Research Abstract |
近年,現行のノイマン型逐次処理計算方式はその限界に達しつつある.そこで本研究では,実用面で不可避的に存在する雑音を有効に利用するということを念頭に置き,非線形ダイナミクスの分野で盛んに研究されている雑音誘起現象に着目する.特に,雑音誘起型カオス同期現象を,従来の確率的情報処理の理論と組み合わせることで,新たな計算アーキテクチャを構築することを目指す.本年度は,カオスゆらぎの制御を応用することで,計算万能性をもつ確率的トークンベース計算システムの小規模テストネットワークを,決定論的力学系によって実装した.具体的にはまず,カオス力学系における共通ノイズ同期現象を活用して計算システムの基本モジュールを提案した.ここでは,ノイズとしてカオスゆらぎを用いることで,モジュールを完全に決定論的に構成した.このモジュール内の非同期状態をトークンとして解釈した場合,従来のトークンベース計算システムの基本素子を表現できる.さらに,2つの素子間結合に抑制的な効果を導入することで,連続状態のトークン信号の干渉を避けたネットワーク上の信号伝搬が可能となった.本成果の意義は,従来の確率的ゆらぎにはない,カオスゆらぎの利点を活かした計算システムの新たな構築可能性を見込める点である.さらにその計算システムをベースに確率的要因を考慮することで,確率論と決定論の相乗効果も期待できることである.また,基本モジュールを用いた拡張性のある小規模テストネットワークを実装することで,半加算器などの実用的なネットワークを設計できる点も重要である.この他には,カオスゆらぎの制御の実現例として,適応的カオス制御法の電子回路による実装や,神経細胞モデルにおけるカオス的発火パターンの同期・制御などの研究を遂行した.
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