2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21820028
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (Start-up)
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
田中 智行 The University of Tokushima, 大学院・ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (50531828)
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Keywords | 中国文学 / 白話小説 / 明代 / 金瓶梅 / 構成 / 対偶 / 宝巻 |
Research Abstract |
本研究では明末に出た『金瓶梅』を中心として、白話長編小説の小説手法の展開を検討することを目的としている。一年日の平成二十一年度においては、『金瓶梅』第三十九回を精読し、同回の小説構成を分析することによって、この作品の創作手法の一端を具体的に明らかにした。本回は前半に男性による道教儀式(〓)、後半に女性による宝巻語りが描かれ、男と女、道教と仏教が明らかに対照されている。さらに前半においては神々を召請する大量の儀礼文書や符が列挙され、そこから神々の社会機構が浮かび上がるのに対し、後半の宝巻においては女性の懐妊から出産までが韻文によって描かれ、同じ宗教的テキストの引用でありながら、社会性と身体性という異なる志向のものが取り合わされている。また『金瓶梅』においては重要な出来事が「九」のつく回に起こることが指摘されているが、第三十「九」回においても、西門慶の二人の子の行く末が前後半でそれぞれ暗示されている。語り手が態度を明示しないまま宗教的テキストを長文にわたり引用する表現構想の同軌も、如上の対偶構成を支えている。また前後半のトーンの落差は、前半の最後に道士が西門慶の家に送り届けた道服に向けられる、女性たちの異なる角度からの視線に象徴的に現れており、そこではこの作者らしい複眼的な表現が対偶構成の中で巧みな効果を上げていて、本回の対偶構成が作者の表現志向にも適した形式であったことが分かる。白話小説創作の背景にある構成意識を具体例に基づいて明らかにしようと試みた研究であり、以上要約したの内容の論文「『金瓶梅』第三十九回の構成」は、査読を経て学会誌『東方学』第119輯に掲載された。
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Research Products
(2 results)