2010 Fiscal Year Annual Research Report
大規模楽譜叢書編纂事業にみる、音楽芸術の価値基準の変化と西洋音楽史学の戦略
Project/Area Number |
21820033
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
朝山 奈津子 沖縄県立芸術大学, 音楽学部・音楽学専攻, 助教 (30535505)
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Keywords | 西洋音楽史 / 19世紀 / 20世紀 / ドイツ |
Research Abstract |
本研究2年次の成果は、論文「『ドイツの音楽遺産・地方編』の成立、消減と継承」(沖縄県立芸術大学紀要第19号)にまとめた。当論文では、最初に、第1次世界大戦後にドイツの音楽学の研究者たちが国際的に孤立を深めていったことが、『地方編』すなわち各地域のまだ知られていない音楽作品の収集活動の背景となったことを指摘した。しかし一方で、新たな事実も判明した。従来、戦時下では『ドイツの音楽遺産』はナチス政権の主導で行われたと考えられてきたが、経済的な援助は中央政府からはほとんど得られず、『地方編』は各地の研究機関の独自の運営によって刊行されたのだった。戦後、『ドイツの音楽遺産』の刊行事業は再編成され、『地方編』というセクションは中止となったが、実際には戦前の『地方編』の計画はそのまま引き継がれていくことになる。こうしたことから、『地方編』は必ずしも政府主導のプロパガンダとして始まったわけではなかったが、一時的にせよ編集組織が整えられたことによって、編集の経験が各地に蓄積され、戦後に新たな地域的音楽記念碑事粟をおこなう契機と拠点を形成したことが明らかになった。 本研究は、第二次世界大戦以前から21世紀までの各時代のドイツについて、当初予定したような刊行物を通じての包括的な発表には至らなかった。が、次年度の学会発表や学会誌への投稿を通じて、成果を順次公表する予定である。 本研究を進める中で、第一次世界大戦の影響がきわめて大きかったことをあらためて意議した。しかし、このことが音楽および音楽学に特殊な状況であったのか、あるいは他分野にも連携する動きがあったかどうか、という点について疑問を持った。今後は、こうした点について芸術学の研究成果を学び、音楽学という学問領域の特殊性と一般性について新たな研究課題を設定し、考察を深めたいと考えている。
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