2010 Fiscal Year Annual Research Report
「ロマネスク期床モザイク研究-「ロマネスク」再考の試み」
Project/Area Number |
21820040
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
金沢 百枝 東海大学, 文学部, 准教授 (10548001)
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Keywords | 床モザイク / ロマネスク美術 / 中世美術 / キリスト教美術 / シナゴーグ美術 / オトラント |
Research Abstract |
本研究は、床モザイク研究を通じてロマネスク期の再考を目的としている。ロマネスク期はヨーロッパ文化の形成を考えるうえできわめて重要な時代である。ロマネスク美術というヨーロッパ初の「共通形式」をもたらしたのは何なのか。その要因を探る目的で、床モザイクを対象としたのは、古代ローマ時代から地中海沿岸域で、時代的にも、地域的にも床モザイクが広く残るからである。 第一にロンドンでの調査旅行において、ウォーバーグ研究所員の情報をもとにオクスフォード大学研究員と非公式に連絡を取りあった。その情報によると、現在、ヨーロッパの床モザイク研究に関する研究書の刊行が、イギリス、フランス、ドイツで準備中だという。1980年代からほぼ存在していなかったロマネスクの床モザイク研究が近年、ヨーロッパで注目を集め、研究が進行中だとわかった。そのうちの一冊(X.Barral i Altetによる)は昨年刊行されたが、カタログ的な総覧であり、床モザイクの図像解読書ではない。ヨーロッパでの研究動向は気になるが、今後、相互協力の道を模索していきたい。 第二に、古代ローマ、ビザンツ、そしてイスラームなど異なる時代、異なる地域のモザイクについても調査を行った。古代ローマを「継承」したのは「ヨーロッパ」のみではないからである。本研究では、ウォーバーグ研究所・並びに古代研究所での調査においてヨーロッパにおける古代ローマ遺跡の調査については、ほとんどが全集の形でカタログ化されており、基礎文献が充実していることを確認した。 そこで第三に、日本ではあまり触れられることの少ないイスラエルの床モザイクの調査を行った。その結果、4世紀から7世紀のユダヤ教のシナゴーグの床には古代ローマ風のモザイク装飾があり、古代風な図像だがやや地方化している。古代美術の「継承と変容」という側面において、ロマネスク美術と比較しうる興味深い近い特徴が見られた。
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