Research Abstract |
ジャンル・アプローチを取り入れたライティング授業(2009年度前期,後期)で,学習者のライティング能力および言語能力が1年間でどう変化するかについて調査した.授業で扱うジャンルは,Eメール文(前期)と要約文(後期)である.以下に,その教育効果について述べる. 授業開始前と開始後の学習者のEメール文を比較し,次の5項目に関して伸びが見られたかについて分析した.(1)タスクの正確さ,(2)構成,(3)文法,(4)流暢さ,(5)語彙の豊富さである.(1)(2)(3)については,評価の信頼性を高めるため,本研究と無関係な二人の英語教員に採点を依頼した.(4)(5)については,学習者コーパスを作成し,テキスト解析ツール(Text-Stat)を用いて使用言語の変化について分析した.これらの量的データに加えて,授業開始前と開始後に実施したアンケートにより,学習者のジャンルに対する認識やビリーフがどう変化かしたかについて質的データも収集した.尚,後期の要約文についても同様の手順でデータ収集と分析を行った. 得られた結果は次の通りである.(1)多変量分散分析で検定を行った結果,(1)(2)(3)(4)に関して,授業前と授業後のライティングに有意な差が見られた,(2)(5)に関しては有意な差が見られなかった,(3)有意な差が見られた(1)(2)(3)(4)の中でも特に(1)の伸びが顕著であった,(4)アンケート結果から,授業開始前と比べると授業後の学習者はより読み手や目的を意識して語彙や構成を選択するようになった.以上の結果から,ジャンル・アプローチは学習者のライティング能力を高める効果があるかもしれない(ただし語彙力全般を高めるには1年間の指導では十分ではない)という可能性を引き出した.この結果を受けて,2010年度は,異なるライティング指導を受ける統制群を作ることにより,ジャンル・アプローチの効果についてさらに調査を続ける予定である.
|