2010 Fiscal Year Annual Research Report
後期ビザンティン(13~15世紀)におけるエレウサ型聖母子の受容
Project/Area Number |
21820050
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
菅原 裕文 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (40537875)
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Keywords | ビザンティン美術史 / キリスト教美術史 / キリスト教図像学 / 聖母子像 / エレウサ型聖母子像 / 天使 |
Research Abstract |
本研究の目的は後期ビザンティン(13~15世紀)におけるエレウサ型聖母子の受容の実態を解明することにある。2010年夏、2011年春にトルコ(イスタンブール)とマケドニア共和国(スコピエ、プリレップ、オフリド)で後期ビザンティン聖堂を中心に調査を実施し、以下の知見を得た。 1)中期ビザンティン(9~12世紀)から後期に至る聖母子像にともなう天使図像を収集し、これまで等閑視されてきた天使の図像が聖母子像の含意する教義を強調する役割を果たしていることを明らかにした。天使図像を収集・分析する過程で中期には典礼上重要な位置に配されていたエレウサ型聖母子像が後期にはその場を他の図像に譲ることに気づいた。 2)この聖堂装飾におけるエレウサ型聖母子像の配置の変化の問題をイスタンブールのコーラ修道院の作例に則して検討した。中期ビザンティン(9~12C)のカッパドキアにおいて、エレウサ型は聖体の秘蹟と不可分な北小祭室に配されていたのに対し、後期には主要壁面から排され、コーラの作例のように葬送礼拝堂やナルテクス等、副次的空間に移されるようになる。これらの空間には、死への畏れを表す「最後の審判」と死の克服を表す「冥府降下」を置くのがビザンティンの定型であるが、こうした図像のトポスと装飾プログラムから、後期には同時代人がエレウサ型に死後の安寧への期待を託したと考えることができる。本研究より、後期ビザンティンではエレウサ型の感情表現が民衆の心理に近しい、親近感を与えるモティーフとして理解されていたということが明らかになった。
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Research Products
(2 results)