Research Abstract |
本研究の目的は,犯罪被害者の刑事裁判への関与が量刑に及ぼす影響を実証的に検討しようとするものである.本年度は,昨年度の準備を踏まえて,実証研究の実施を進めた.まず,模擬裁判の映像を用いた心理実験を実施した.そこでは,犯罪被害者に関連する情報(遺族の被った影響,被害者の人となり,あるいは量刑に関する意見)を映像の中で提示するか,提示するとして,それを検察官に提示させるのか,あるいは被害者遺族自身に提示させるのか,といった変数が操作された.あるいは,情報を提示する被害者遺族の感情表出の在り方を操作した実験も,実施した. そのような操作の結果として,実験参加者の量刑判断にいかなる影響が発生するのかを確かめるのが,実験の主たる目的である.より精密な分析・解釈は今後の課題でもあるが,犯罪被害者に関連する情報を誰が提示するかという点よりも,そのような情報の有無自体が,量刑への影響という点では重要であることが示唆された.さらに,被害者遺族の表出する感情は,実験参加者が自身の行う量刑判断に対して抱く確信の程度に影響を及ぼす可能性が示唆された. また,訴訟記録に基づく調査については,量的な研究の実施には,なお課題が残るものの,本年度は,質的な研究をある程度進められるよう,入手できた訴訟記録から必要な情報をまとめる作業を行った. 以上の結果が,現在の刑事司法における被害者参加の態様を考える上でどのような意義を有するかについては,この点に関する規範的議論の状況を踏まえつつ,さらなる検討が必要であるが,本研究により,そのような検討に必要な基本的情報が提示できたと思う.
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