2010 Fiscal Year Annual Research Report
アートプロジェクトの事例にみる芸術労働の社会学的研究
Project/Area Number |
21830060
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉澤 弥生 大阪大学, 人間科学研究科, 特任研究員 (20513162)
|
Keywords | 芸術 / 労働 / アートプロジェクト / 文化政策 / 社会運動 |
Research Abstract |
本研究は、アートプロジェクトの現場に携わる若手労働者の労働環境について、国内・海外での聞き取り調査を中心におこなうものである。2年目の本年度は、引きつづき聞き取りをすすめるとともに、その成果を報告書(インタヴュー集)としてまとめ、発行する。 まず国内調査は、アーティスト、キュレーターといった専門職の人々を中心に9人に実施した。その結果、主にフリーランスとして働くかれらは「自己責任」の名の下で、文化施設スタッフなどの雇用労働者とは異なる仕方で厳しい状況に置かれていることが明らかになった。次に海外調査は、政権交代後のロンドンにてアーティストや美術館スタッフなど8名の人々に実施した。政権交代後の不安定な時期ではあったものの、日本に比べ充実した文化政策の基盤と社会保障の存在が浮き彫りになった。と同時に芸術の社会的な位置づけについても、意識の差がうかがえた。 こうしてこれまで2年にわたり日本各地で24名、ロンドンで9名、パリで4名に対しておこなった聞き取りを、インタヴュー集『若い芸術家たちの労働』として2011年3月に刊行した。そこでは、日本のアートプロジェクトの現場の状況と、それを支える人々の労働、かれらの現代アートに対する思いとともに、この領域特有の「やりがいの搾取」、そして昨今の若年者の就労や貧困問題とも通じる構造的な問題が明らかになった。現場のさまざまな芸術労働者の声を集約した冊子はこれまで例がない。本報告書は、労働問題を考慮した具体的な文化政策の提言や、さまざまな分野で広がっている新しい社会運動への展開に際して、問題意識の共有や議論の土台として有効に機能すると思われる。
|
Research Products
(8 results)