Research Abstract |
従来のモデルを時間スケールという観点から統合した多重時間スケールモデルを提唱した。このモデルは,個人の認識論について以下のように想定している。(1)人々にとって"知識"や"知ること"は,脱文脈化された概念の体系としてではなく,特定の認知的活動の文脈に埋め込まれた資源として表象されている,(2)個人の認識論においては,知識一般と使うものとしての知識とで異なる信念が形成されている,(3)認知活動を行う場合には,認識論と現実の課題との間の相互作用を通して,仮説的世界観として典型的なメンタル・モデルが状況依存的に構築され,その枠組みの中で知識の管理・統制が行われる,(4)仮説的世界観の範囲で課題解決が十分に行われない時,世界観の再措定が動機づけられる,(5)認知活動を繰り返すことを通して新たな認識論が構築され,既存の仮説的世界観との間で葛藤が生まれ,かつ,他者の視点や教育的介入によって仮説的世界観の背景となる認識論が対象化されたとき,個人の認識論は新たな世界観における要求に適応する形で変容する(野村・丸野,in press)。このモデルを検証するために,認識的信念尺度を作成した。調査の結果,知識一般についての認識論に外に,利用知識についての信念の因子が見出された。内的整合性が若干低かったものの,検査-再検査信頼性は十分に高かったため,これを"利用知識についての認識的信念"と命名した(野村・丸野,2010a)。また,これらの信念によって授業に対する満足度が異なることが示された(Nomura & Maruno,2011;野村・丸野,2010b)。その後,大学の学生を対象に,認識的信念の変容を目指した介入授業を行った。その結果,一部の学生の間で認識的信念尺度得点に変化が見られ,この変化の背景には授業中に行った学生による質問の意義を実感することが影響していた(野村・丸野,未発表)。これは,モデルの想定を支持するものである。
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