2010 Fiscal Year Annual Research Report
土壌及び大気に係る環境損害に対する責任制度の研究―海洋に係る環境損害との比較から
Project/Area Number |
21830084
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
小林 寛 長崎大学, 環境科学部, 准教授 (30533286)
|
Keywords | 民事法学 / 環境損害 / 海洋汚染 / 大気汚染 / 土壌汚染 |
Research Abstract |
平成22年度は、平成21年度に引き続き、船舶起因の油による海洋汚染が生じた場合の環境損害の賠償・補償制度の考察を行った。特に一般船舶油濁損害の賠償制度について環境損害を中心に考察を行い、九州法学会2010年第115回学術大会(平成22年6月26日)において研究報告を行った。かかる考察をまとめた論稿の下巻を長崎大学紀要(長崎大学総合環境研究)において発表し、環境損害に対する責任制度を導入する場合でも油濁被害者の保護という油濁賠償法の趣旨が後退しないよう一定の均衡を保つ必要があるという問題意識などを示した。 さらに、平成22年度は、海洋に係る環境損害に関する考察を踏まえて、土壌及び大気に係る環境損害についても考察を進めた。かかる考察結果を財産法研究会(慶応義塾大学、平成23年4月16日)において報告した。同報告においては、環境損害に対する責任制度を導入する必要性が既に主張されている一方、これを導入するに当たっては、土地取引の買主(土壌の場合)や油濁被害者(海洋の場合)の保護が後退しないよう慎重な制度設計を行うことが望ましいということを大気、土壌、海洋といった各媒体を比較しながら主張した。かかる主張はこれまで示されて来なかった問題意識であり、本研究において得られた重要な知見であると考える。すなわち、大気については、EU指令の環境損害概念には大気は含まれておらず、アメリカ合衆国においても、大気浄化法には自然資源損害に対する責任制度は規定されていない。他方、土壌や海洋についてはアメリカ合衆国において自然資源損害に対する責任制度が存在するが、これを我が国において導入する場合でも、土地取引の買主や油濁被害者の保護への適切な配慮が必要であることを明らかにした(具体的には、基金による補償額に限度額を設けるなど)。
|