2009 Fiscal Year Annual Research Report
量子情報理論に立脚した基底状態探索アルゴリズムの開拓
Project/Area Number |
21840021
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (Start-up)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 宗 The University of Tokyo, 物性研究所, 特任研究員 (40507836)
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Keywords | 量子情報 / 量子アニーリング / 量子ダイナミクス / 緩和現象 |
Research Abstract |
計算物理学の一つの中心課題として、与えられた系の安定状態を効率的に得る手法を開発することが挙げられる。多くの場合、平衡状態が容易に得られず、何らかの工夫が必要となる。例えば、スピングラスなどランダムネスがある系においては、複雑な内部エネルギー構造から、平衡状態への緩和が劇的に遅くなるという現象が知られている。このような系に対し、これまでは温度を巧みに制御することにより安定状態を得る「シミュレーテッド・アニーリング法」が用いられてきた。本申請課題の目標は、量子情報理論に立脚した新しいタイプの計算アルゴリズムを考案し、遅い緩和現象を引き起こす問題に対して適用可能なレベルに高めることである。本年度は、(A)乱れのない系における、エントロピー効果による遅い緩和現象の微視的機構、(B)フラストレーション系における秩序形成過程、(C)熱・量子ハイブリッドアニーリングの適用の3点に関して研究を行った。(A),(B)に関しては遅い緩和現象の微視的機構を考察することにより、今後、新しい手法を開発するための指針を得たと言える。特にこれまで知られている遅い緩和現象とは異なる種類の遅い緩和現象の微視的起源を提案した。また(C)に関しては、モンテカルロ法並びに変分ベイズ法に量子アニーリングの概念を導入し、大規模な系について計算を実行した。その結果、熱揺らぎと量子揺らぎを同時に適切なスケジューリングで弱めていくと、安定状態を得やすいことが見いだされた。これらの研究は、量子統計物理学と情報科学・情報工学の境界領域として位置づけられる研究であり、量子アニーリング法が実用的にも有用であることを示した研究である。
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