Research Abstract |
従来の理論では理解できない"特異な磁気構造,磁気散漫散乱の出現する秩序状態"や"帯磁率,比熱における異常な相転移現象"などの謎を解く鍵として,四極子や八極子などの多重極子の自由度が脚光を浴びている。本研究の目的は,その多重極子の秩序メカニズムの解明にある。その手法として共鳴X線散乱法を用いて,多重極子秩序の生成消滅過程を直接観測する。 共鳴X線回折法は,多重極子秩序そのものを直接観測できる唯一の実験手法である。しかし,多重極子の秩序温度はほとんどが3K以下である為に,国内での共鳴X線散乱の実験が不可能であり,これらの低温で起こる多重極子の秩序現象に対応できなかった。本研究課題の達成は,この問題を克服し,さらに入射X線の偏光制御により外部磁場の印加を可能にすることで,多重極子秩序を示す典型物質の徹底的な研究を国内で初めて実現する点で,非常に有用である。 今年度は,ダイヤモンド移相子を用いて入射X線の偏光制御試験を行い,目標とした精度での偏光制御にほぼ成功した。 従来,共鳴X線回折により軌道自由度などの秩序変数を同定する場合,一つの回折ピークを捕らえた状態のまま散乱ベクトルの周りで結晶(冷凍機)を回転させ,その強度変化(アジマス角依存性)を測定し,その結果を再現するモデルを立てる。本研究のように極低温や強磁場といった環境下に試料がある場合,大型の装置を用いる為,「試料と磁場を一緒に回転させる」という操作はまず不可能である。その為,試料回転ではなく入射X線の偏光制御により,試料を全く動かさずに測定し,極低温,強磁場,高圧下での秩序変数の同定を可能にする。さらに,試料回転によるビーム照射位置の微妙ずれから,回折強度が変動するといった非本質的な効果がなくなり,厳しい議論に耐え得るデータが得られる。 今年度の偏光制御の成功により,H22年度は冷凍機と超伝導マグネットを導入し,Ce_xLa_<1-x>B_6やDyPd_3S_4の八極子の秩序変数及び構造を調べる。
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