Research Abstract |
本年度は,流域内のハノイ市都市区および郊外区にてリンのマテリアルフローを構築したとともに,郊外区1コミューン(フースエン区ホアンロン社)にてより詳細なリンフローを構築し,次年度以降に流域での栄養塩収支を検討するための基礎を築いた。具体的には,人間生活,畜産,農業および市場の4つの主なプロセスに注目して,フロー分析を実施した。ハノイ市都市区については主に筆者の既存の調査にて得られたデータを援用してフローを構築した。一方,郊外区については,新たに4区7社177世帯を対象とした廃水および生活・畜産廃棄物の管理およびフローについて訪問調査を実施し,さらにその他既存情報を援用してフローを構築した。ホアンロン社については,郊外区フローをべースに48世帯の調査に基づきよりフローを構築した。構築したフローより得られた結果として,1)ハノイでは急速な都市化が進むものの,郊外区ではし尿・生活系汚水や家畜糞尿の農業・畜産利用が根強く行われており,それらは農業へのリン投入量のおよそ7割を担っていた。2)畜産廃棄物由来の農業へのリン投入量は,化学肥料のそれを約5割上回った。3)一方,郊外区の環境へのリンの流出量の6割程度は農業由来,3割程度は畜産由来であった。4)都市区から環境へのリンの流出量は郊外区の1割程度であり,大部分は生活排水に由来した。さらに,栄養塩収支に影響を与え,かつ都市化による変化が予想される要素として,人口,トイレ水洗率,汚水処理設備普及率,廃棄物回収率,農地面積,単位面積施肥量、単位面積収穫量,家畜頭数を予備的に抽出し,ハノイ市を対象とした2020年のリンフローの推計を行った。その結果,都市区においてはリンの環境流出はほぼ横ばいであるものの,郊外区では施肥量の増加,地域資源循環の減少などにより,リンの環境流出が約3割増加すると試算された。
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