Research Abstract |
人間の発声器官である舌は,発声や呼吸といった人間の生活においてきわめて重要な役割を有している.これらの動作は筋肉による複雑な機構によって実現されている.舌の機構には極めて小型の空間に7種類以上の多くの筋肉が入り混じり,また,筋肉の体積自体が変形に大きく関与するといった特徴がある.これらの機構に関する検討は、舌のみでなく、内臓などの人間の器官の動作の再現に活用できる可能性がある.これまで,人間の発声運動の解明を進めるため,発声系の機械モデル(発声ロボット)を構築する研究を行ってきたが,ハードウェア開発の制約により,剛体リンクを用いた機構で構築を行ってきた.この機構は人間の発声時の舌形状の再現においては有効であったものの,将来的に,人間の筋肉に準じた機構の開発が必要になると思われた.そこで,これまでに軟素材を電磁力で変形させる機構の検討や,舌形状の計測用に,フォトリフレクタを用いて,弾性を有する舌表面変形部への影響を抑えて非接触での計測ができる距離センサの開発を行い,あらかじめ形状のわかっているブロックと同じ形状を軟素材カバーが付いたロボットの機構で再現し音響的に非常に近くなることを確認した.今年度は,発話ロボットを用いた,病的症状の再現に取り組んだ.これまでの研究で発話ロボットが十分に人間に近いことを示してきたため,医療における診断データを再現することで,病的状態の発声機序を解明し,治療に役立てることができると考えられたからである.また,より人間に近い舌機構の開発においても,医療用途を前提として必要とされる人間との近さ,すなわち要求される機構を明確にすることができ,舌機構の開発を効果的に進めることが可能となるからである.その中で,声帯モデルを改良して病的状態での振動(倍周期振動)が可能にし,計測データより有効性を確認した.
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