2010 Fiscal Year Annual Research Report
ツェツェバエに由来するトリパノソーマの昆虫型分化誘導物質の同定
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21880003
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮崎 智史 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 博士研究員 (20547781)
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Keywords | アフリカ睡眠病 / トリパノソーマ / ツェツェバエ / Glossina proteolytic lectin / サシバエ / 遺伝子重複 / RACE法 / セリンプロテアーゼ |
Research Abstract |
哺乳類の血液に寄生してアフリカ睡眠病を引き起こすトリパノソーマ(Trypanosoma spp.)は、ツェツェバエによってのみ伝播され、その際に血流型から昆虫型へと細胞分化を起こす。従って、その昆虫型分化を誘導する物質がツェツェバエの体内に存在すると予想され、その作用機序を理解することが本感染症の制圧に貢献すると期待される。現在までに、ツェツェバエの1種G.fuscipesに由来するGlossina proteolytic lectin(Gpl,消化酵素遺伝子)の組換えタンパク質について、昆虫型分化誘導能が確認されている。本研究ではまずG.morsitans及び、非媒介性でツェツェバエの近縁種であるサシバエStomoxys calcitransよりGpl相同遺伝子の部分配列の単離を試みた。その結果、ツェツェバエ及びサシバエから、それぞれ3つ及び5つののGpl類似配列が得られ、両種における遺伝子重複の可能性が示唆された。続いてそれらの中から最もGplに類似した配列をそれぞれ選び、RACE法によって各遺伝子の全長配列を得た。ツェツェバエからは既知のGpl相同遺伝子であるGlossina serine protease 1(Gsp1)が、サシバエからは新規のStomoxys serine protease x(Sspx)が得られた。Gplと予想アミノ酸配列を比較すると、Gsp1(92%)の方がSspx(78%)よりも高い類似度を示した。しかしながら、ともに同一のセリンプロテアーゼドメインを有することから,同様の酵素活性が予想された。一般に吸血昆虫では消化酵素遺伝子が多重化しやすく、その一部が独立に新奇の機能を獲得することが起こりうる。従ってツェツェバエにおいても、多重化した消化酵素遺伝子の一部が昆虫型分化誘導を担う新奇のドメインを独立に獲得し、Gpl遺伝子が進化したと示唆された。今後はその新奇ドメインを明らかにし、両遺伝子の作用機序の違いを理解することが期待される。
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