2010 Fiscal Year Annual Research Report
システム生物学的方法論による乳癌幹細胞の自己複製と分化の分子機構の解明
Project/Area Number |
21890048
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日野原 邦彦 東京大学, 医科学研究所, 特任教授 (50549467)
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Keywords | 乳癌 / 癌幹細胞 / NF-κB / PI3K/Akt |
Research Abstract |
本研究は乳癌幹細胞の維持に関わる分子機構の解明を目的としており、昨年度行なったシステム生物学的解析から、乳癌幹細胞ではNF-κB等の炎症性免疫応答関連遺伝子群が活性化していることを見出している。しかしNF-κBを介した癌幹細胞制御の分子機構については未だ不明瞭な部分が多いため、本年度はNF-κBシグナルの乳癌幹細胞における役割の解明を試みた。まず乳癌幹細胞の培養法であり、in vitroでの自己複製能を検討するためのアッセイ法であるスフィア培養系を構築した。この系を用いてヒト乳癌細胞株中の癌幹細胞画分の培養を行なったところ、通常の接着培養時の細胞に比べてスフィア細胞ではNF-κBの活性が上昇していることが明らかとなった。さらに乳癌スフィアは、NF-κBインヒビターの投与やNF-κB抑制型mutantであるIκB-SRの発現によりその形成能が阻害されることを見出した。これらの知見から、NF-κBは乳癌幹細胞の自己複製能の維持に関わることが示唆された。また、NF-κBはPI3K/Akt経路による制御をうけることが報告されている。そこでまず、乳癌細胞株をPI3Kインヒビターで処理したところ、NF-κB活性の減少が認められた。次に、乳癌スフィアの形成にPI3K/Akt経路が関わるかどうかを検討したところ、PI3Kインヒビターの投与によりスフィアの形成は阻害された。以上より乳癌幹細胞の自己複製はPI3K/Akt経路を介したNF-κB活性により規定されていることが示唆された。これらの知見はNF-κBを介した癌幹細胞制御機構の一端を明らかにしたものであり、今後より詳細な分子メカニズムを明らかにすることで、癌幹細胞の選択的治療法の確立につながることが期待される。
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