2021 Fiscal Year Annual Research Report
Novel cooling phenomena in semiconductor quantum heterostructures
Project/Area Number |
21F20724
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SALHANI CHLOE 東京大学, 生産技術研究所, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 半導体ヘテロ構造 / トンネル効果 / 熱電子放出 / 冷却素子 / 熱電子冷却 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代のLSIに代表されるエレクトロニクスの進歩を大きく阻んでいるのが発熱の問題であり、冷却技術は将来のエレクトロニクスの発展の鍵を握る技術と言っても過言ではない。我々は半導体へテロ構造のバンド構造を適切に設計し、熱電子放出と共鳴トンネル効果を同時に制御して実現できる熱電子冷却技術に注目している。熱電子冷却においては、エミッタ側のトンネル障壁を介して量子井戸に低エネルギーの電子が共鳴的にトンネル注入され、量子井戸を出るときにはコレクタ側の低くて厚い障壁を高エネルギーの熱電子が熱的に越えていく過程を用いるような素子であり、電流を流すにつれて量子井戸層が冷却されていく素子である。本研究では、1)非対称二重障壁構造を系統的に変化させ、冷却を支配するパラメータを明らかにするとともに、素子構造の最適化を目指している、2)大きな冷却効果を得るための多層構造化など新しい素子構造の探索を行っている。 本年度の主な成果は以下の通りである。 1)精密な電子温度の決定:本素子構造においては、厚さ数nmの量子井戸層内の電子系が冷却されるため、その温度の評価が重要である。本研究では、基準になる無バイアスでのフォトルミネセンス(PL)スペクトルで、バイアス下でのPLスペクトルの比を取るという方法で、より正確な電子温度の決定ができるようになった。 2)多重量子井戸構造の効果:より大きな電子冷却効果を目指して、量子準位の位置を適切に制御した多層構造を作製し、その電子温度を調べた。まだ初期的な段階であるが、量子準位差が光学フォノンエネルギーに等しくなると、光学フォノン散乱による高速な電子緩和が発生し、PL強度や電子温度に共鳴的な構造が現れることが見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、半導体へテロ構造のバンド構造を適切に設計し、熱電子放出と共鳴トンネル効果を同時に制御して実現できる熱電子冷却技術に注目している。これまでの主な成果は以下の通りであり、計画の一部に遅れがあるものの、大まかには予定通り進捗している。 1)量子井戸中の精密な電子温度の決定:本素子構造においては、厚さ数nmの量子井戸層内の電子系が冷却されるため、その温度の評価が重要である。従来は、量子井戸構造からのフォトルミネセンス(PL)の高エネルギー側スペクトルの裾野の形状から電子温度を決定していたが、絶対値の確度が低いという問題があった。そこでスペクトルの形状のみでなく、基準になる無バイアスでのPLスペクトルとバイアス下でのPLスペクトルの比を取るという方法で、遷移確率のエネルギー依存性の効果を相殺し、より正確な電子温度の決定ができるようになった。 2)多重量子井戸構造の効果:より大きな電子冷却効果を目指して、量子準位の位置を適切に制御した多層構造を作製し、その電子温度を調べた。まだ初期的な段階であるが、量子準位差が光学フォノンエネルギーに等しくなると、高速な電子緩和が発生し、PL強度や電子温度に共鳴的な構造が現れることが見出されつつある。 3)熱電子放出構造を用いた熱電発電:一般に熱電素子は、加熱・冷却ができれば、温度差が与えられれば、発電も行えるはずである。本研究では、加熱することにより、本素子が発電に使えるか、従来のゼーベック素子と比べて性能はどうか、などの検討を行うために熱電発電効果を測定するセットアップを立ち上げつつある。 以上のように、本研究はおおむね順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に開始した、量子準位の位置を適切に制御した多重量子井戸構造を用いて、より大きな電子冷却効果を得る試みを継続する。特に、隣接する量子井戸のエネルギー間隔と光学フォノンエネルギーの関係は非常に重要であり、素子を流れる電流、フォトルミネセンス(PL)の強度、PLの形状から求められる電子温度と量子準位の間隔について精密に検討する。そのためにも、量子準位を精密に制御できる結合2量子井戸構造の作製を行い、量子準位間のエネルギー差と光学フォノンエネルギーの大小によって、電子温度がどのように変化するかを明らかにする。 さらに、精密な電子温度の評価は重要である。昨年度導入したPL強度の比を用いて、電子温度の絶対値の精度を高めることができるようになりつつあるが、複数のスペクトルのオーバーラップがあると、単純な割り算では遷移確率の項を除去できなくなり、温度の見積もりが困難となる。本研究では、最も大きな背景PLを与えるドープしたGaAs層からの発光を弱めるための構造の工夫を行うとともに、PL励起スペクトルを測定することにより、より精密な電子温度の決定が可能になるような方策を検討する。
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