2022 Fiscal Year Annual Research Report
文化実践の多元性と境界の変容・融合に関する研究 -文化的オムニボアとは何かー
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21H00498
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
片岡 栄美 駒澤大学, 文学部, 教授 (00177388)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村井 重樹 島根県立大学, 地域政策学部, 准教授 (00780230)
南田 勝也 武蔵大学, 社会学部, 教授 (30412109)
瀧川 裕貴 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (60456340)
川崎 賢一 駒澤大学, グローバル・メディア・スタディーズ学部, 教授 (20142193)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 文化的オムニボア / 文化資本 / 文化振興策 / 芸術文化実践 / 社会調査 / 趣味(テイスト) / クラウド実験 / 若者文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の研究成果は以下の通りである。 (1)文化的オム二ボアの内外の研究動向を片岡(2022)および村井(2022)がそれぞれ査読論文を執筆し、現代の新興文化資本の研究動向をもとに理論的に検討した。片岡によれば文化的オムニボアの割合は1995年以降大きな変化はないが、若者の大衆文化嗜好が増加しハイカルチャー志向が減少している。(2)人々が望む文化振興のジャンル間比較を過去データで分析し、文化振興策として文化庁などに期待する文化ジャンルの特徴とその理由について明らかにした(片岡 2022)。西洋の正統的文化への期待は最も低く、高く期待されるジャンルは食文化や日本的な伝統芸術文化や地域の伝統文化であることがわかった。また大学生への質的調査から西洋の正統文化を期待しない理由などを詳細に明らかにした。(3)ソーシャルメディア上の文化的嗜好と社会的地位の関連について瀧川(2022)が分析を行い、学会報告を行った。(4)趣味と文化に関する全国調査をWeb調査にて実施し、芸術文化実践や嗜好を捉える新しい調査内容を開発した。調査は18歳~65歳の日本人男女で、日本全体の就業構造ならびに性別年齢コホートで割付し、日本の成人を代表するサンプル構成とする約3000サンプル回収を目指した調査を2023年3月に実施した。(5)首都圏母親調査をWeb調査で2023年3月に実施し、世代間の文化伝達の量的調査を行った。(6)芸術文化に関する美的性向・ハビトゥスを測定する手法として、認知科学的な手法を開発し、クラウド実験を実施した。(7)デジタル文化時代における若者の文化行動について、「推し活」の特徴をまとめるとともに、VR等を使った文化イベントへの参加等の特徴を片岡が整理し公開した。(8)若者文化の分化を理解する分析枠組みについて、片岡が整理し、日本社会学会シンポジウムで公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は新しい調査法の開発やクラウド実験などにより、芸術文化実践をめぐる科学的な手法の開発に着手できたと考える。具体的には、①日本における芸術文化実践や大衆文化実践およびそれを支えるハビトゥスの社会的特性を明らかにするための量的調査を2つ実施することができたので、当初の目的以上に調査に関しては進展した。②Webアンケート調査法による文化実践やハビトゥスの研究が進展した。③またクラウド実験による文化的嗜好とハビトゥスの認知科学的実験の手法を開発したことは、この分野における科学的手法による研究の進展をもたらすものである。④また文化的オムニボアの研究動向や理論的課題を整理できたことも、重要である。⑤さらにデジタル文化がどのように文化実践や趣味活動に利用されているかの概要を整理することで、今後の研究課題へのデジタル文化の影響を検討する準備を行った。⑥ただし予算が不足した関係で、インタビュー調査を実施することができなかった点は、次年度への課題の繰り越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度であるので、これまでの調査研究の成果を論文や学会報告などで成果として公表していく予定である。月1回の研究会を実施することで、以下の課題を推進する。 (1)2022年度に収集した調査データを分析し、研究論文にまとめていく作業を中心に活動する。それに先立ち、この2つのWeb調査のデータクリーニングと職種の自由回答コーディング作業等に時間と労力がかかるが、それらを解決した上で、年度内には報告書を作成し、公開する予定である。 (2)また昨年度に予算の関係で積み残した課題であるインタビュー調査を今年度に実施することで、量的調査法と質的調査法による混合的手法によりデータの接合をはかり、日本の文化実践とハビトゥスの変容が、どのようなものであるかを詳細に明らかにすること目的としている。質的研究のサンプル収集は調査会社に委託する。 (3)これまでに収集したSNSの公開データの分析を進め、公開する。 (4)文化ジャンル間の相互浸透・融合がどのような社会現象として生じているかに関しては、ミクロな個人データだけではわからない部分も多いので、この問題については日本の伝統芸能において現在進行形である部分の情報収集につとめ、伝統芸能における新旧のコンテンツの融合について情報を整理する予定である。 (5)これまでの研究成果の一部は、書籍として出版の準備中であり、今年度中に刊行される。
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