2022 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナム出身労働移民との共生を見据えたベトナム語教育に関する研究
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21H00544
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
清水 政明 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 教授 (10314262)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柿木 重宜 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (00321050)
近藤 美佳 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 講師 (20875091)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ベトナム語教育 / ベトナム出身労働移民 / 国際ベトナム語能力試験 / 初級準備段階 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度には、サバティカル日本語の研究成果を参考に、iVPT(国際ベトナム語能力試験)基準A1レベルへの導入に相応しいベトナム語の語彙・文法事項の抽出を行い、初級教科書の一部としてまとめたので、引き続きサバティカル日本語の知見を応用し、抽出した事項の習得に有用な手法の構築と問題集の作成に取り掛かった。前年度抽出した学習項目にしたがって、ベトナム語の日常会話表現(挨拶文など)、名詞述語文、動詞述語文の肯定・否定・疑問文の形を、ベトナム語の待遇表現に大きく関わる人称代名詞に留意しつつ、難なく習得できる教材の作成に着手した。 日本人がベトナム語のような単音節を基盤とする孤立語を習得する際、発音の困難さに加えて指摘されるもう一つの困難さは、語彙習得である。そこで、単音節の形式と意味を関連づけて記憶することを助ける重要な要素となるのが、共通の言語財である「漢語」である。漢語起源語彙については、漢字とその読みが、形式・意味ともに日本語の漢語と関連付けることで記憶が助けられる可能性がある。一方、漢語以外のベトナム特有の語彙の場合、個々の語彙の音と意味を関連付けて記憶することが至難の業となる。そこで、やはり同じ漢字文化圏の言語であることを活かし、かつてベトナムで用いられた、ベトナム語を表記するために漢字を改良して作製されたチュノムという文字の字形を示すことにより学習者の記憶を助ける方法について探った。 コミュニケーションを円滑にする上でも重要なカギとなる人称代名詞については、個々の表現を示す際に、なるべく具体的な場面を設定することが重要である。つまり、話し手と聞き手の間の性別・年齢差・親疎の差とそれに伴う表現の差異を明示することである。それに関しても、何らかの視覚的な補助があると、忙しい中でのベトナム語習得を試みる学習者にとって有用であると考え、教材作成に応用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サバティカル日本語の調査とその応用に関して予想以上の進展があり、ベトナム語への応用に大きく貢献した。それにより、ベトナム語の日常会話表現(挨拶文など)、名詞述語文、動詞述語文の肯定・否定・疑問文の形を、ベトナム語の待遇表現に大きく関わる人称代名詞に留意しつつ習得できる教材作成の作業が順調に進んだ。 漢語起源語彙の習得と漢字をベースとするチュノムの活用に関しては、まず試行的にベトナム語を専攻する大学生を対象に行い一定程度の成果を上げることができた。 ベトナム語の待遇表現に大きく関わる人称代名詞についても、一目で場面が理解できる絵を示す等の方法で問題のサンプルを作成した。この点に関してもサバティカル日本語の研究成果が大いに役立っている。 以上の成果から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年及び一昨年度には、サバティカル日本語の研究成果を参考に、iVPT基準A1レベルへの導入に相応しいベトナム語の語彙・文法事項の抽出、初級教科書の出版、問題集のサンプル作成を行った。また、日本人がベトナム語に代表されるような単音節を基盤とする孤立語を習得する際、発音習得の困難さに加え、語彙習得の困難さも存在するのが現実である。そこで、共通する言語財である漢語起源語彙(漢越語)を有効に利用しつつ、漢語以外のベトナム特有の語彙については、かつてベトナムで用いられた、漢字を改良して作製されたチュノムという文字の有効性についても方法を探った。一方、コミュニケーションを円滑にする上で重要なカギとなる人称代名詞については、具体的な場面設定による画像等を利用した習得の可能性を探った。 以上を踏まえ最終年度に当たる今年度は、既に作成した初級教科書と入門レベルの文法・語彙を含む教材のプロトタイプを基に、問題サンプルを含んだ初級準備レベルの教科書作成を行う。昨年度考案した漢語起源語彙と漢字をもとに作成されたチュノムという文字の効用についても引き続き利用方法について考察を進める。また、昨年度の経験から、初級準備段階とはいえ、様々な文法用語の使用は避けられない。ところが、従来国内外で出版されたベトナム語教科書で使用される文法用語は決して統一的ではない。それは語形変化のない孤立語の品詞分類をはじめとする未解決の問題が山積するからである。本研究の目的の一つは、あくまでより高度なiVPT基準への橋渡しとなる初級準備段階の教材作成であるから、汎用性が高く、初級準備段階の日本人学習者にとって理解しやすい文法用語の整理が必要である。それらの作業を問題作成と平行して行い、最終的な成果を世に問うことを目指したい。
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