2022 Fiscal Year Annual Research Report
社会的危機状況下における人びとの意識の変容とその階層差に関する社会学的解明
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21H00776
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
數土 直紀 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60262680)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 忠彦 統計数理研究所, データ科学研究系, 准教授 (10247257)
神林 博史 東北学院大学, 教養学部, 教授 (20344640)
小林 大祐 金沢大学, 人間科学系, 教授 (40374871)
永吉 希久子 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (50609782)
ホメリヒ カローラ 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (60770302)
吉川 徹 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 教授 (90263194)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 階層意識 / 主観的ウェルビーイング / 社会的危機 / COVID-19 / 格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、2020年度に実施した調査データの分析に加え2021年度に実施した調査のデータ分析にも従事し、新型コロナウィルス感染が拡大したことで生じた人びとの意識・行動の変化が、新型コロナウィルス感染が(暫定的に)収束したことでさらにどのように変化したかを明らかにした。その際に特に注目したのは、テレワーク/リモートワークの普及が人びとの意識・行動に与えた影響であり、また新型コロナウィルスワクチンの接種が進んだことが人びとの意識・行動に与えた影響である。 テレワーク/リモートワークの普及は、多くの人びとに望まれていたにもかかわらず、実際にテレワーク/リモートワークに従事できた人々は多くはなかった。社会的に恵まれた人びとはテレワーク/リモートワークに従事できる機会を相対的に多く与えられていた一方で、社会的に恵まれていなかった人びとはその機会を十分に与えられていなかった。その結果、この時期に新しい格差が生まれ、階層間格差を拡大させていたことが判明した。 2021年度は新型コロナウィルスワクチンの接種が政府の政策を通じて展開されたが、この時期の政府への政策評価・信頼は、新型コロナウィルスワクチンをめぐる政策に大きな影響を受けていたことが判明した。それと同時に、その影響は社会状況に依存して複雑に変化し、非線形化されていたことも判明した。具体的には、新型コロナウィルスワクチンの接種が急激に進んだ時期にむしろ政府への政策評価・信頼は悪化し、逆にオミクロン株によって新型コロナウィルス感染が再拡大した時期には政府への政策評価・信頼は好転していたことが確認された。一見すると不可解なこれらの現象は、相対的剥奪、あるは個人合理性にもとづいた個人の政策評価によって理論的に説明できることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染の収束が、当初の見立てよりも大幅に遅れたため、パネル調査データを整備し、統合する作業に予定以上に時間をかけざるをえなかかった。したがって、分析をおこなうために必要とされる調査データの整備に時間をかけたために、当初予定よりも、調査データの分析開始を遅らさざるをえなかった。しかし、調査データの準備が整ったあとは、順調にデータの分析を進めることができ、2020年度の新型コロナウィルス感染拡大期と2021年度の新型コロナウィルス感染収束期に生じた人びとの意識・行動の変化を明らかにすることができた。調査データの分析は、主に人びとの生活満足感、メンタルヘルス、社会的信頼の変化に焦点を充てていたが、その結果、いくつかの重要な知見を明らかにすることができた。一つはテレワーク/リモートワークが人びとのウェルビーイングに与えた影響である。今回の分析で、テレワーク/リモートワークの普及が階層間格差を生成・拡大させていた可能性があることを明らかにしている。もう一つは、ワクチン接種政策の影響である。今回の分析では、一見すると人びとの感染予防対策に対する政策評価や信頼の変化は不可解にみえる一方で、それらの背後には明確な社会メカニズムがあったと考えられる。これらの研究成果は、2022年度中に、国内学会(数理社会学会、日本社会学会)、さらには国際学会(アメリカ社会学会)で報告をおこない、様々なフィードバックを受けることができた。これらを総合的に考慮すれば、新型コロナウィルス感染の収束が遅れたために一部作業に遅れが生じたものの、全体としてみれば概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度におこなった調査データの分析をさらに継続しておこない、分析結果の信頼性と一般性を向上させることに努める。また明らかにされた分析結果が示唆することの理論的根拠を、先行研究を丁寧に検討することを通じて、議論し、明らかにしていく。 それと同時に、本プロジェクトを通じて明らかになった研究成果を、学会報告を通して、積極的に発信していく。具体的には、まず6月の国際社会学会(開催地:メルボルン)で新型コロナウィルスワクチンの接種政策が人びとの政策評価・社会信頼に与えた影響について報告をおこなう。また8月にはアメリカ社会学会(開催地:フィラデルフィア)でテレワーク/リモートワークの普及が人びとのウェルビーイングに与えた影響について報告をおこなう。また、生活の質研究に関する国際学会(開催地:ロッテルダム)で、新型コロナウィルス感染の拡大期と収束期における人びとのメンタルヘルスの変化の相違について報告をおこなう。 国際学会での報告を終えた後は、報告を通じて得られたフィードバックを参考に英語論文・邦語論文の執筆にとりかかり、その完成に努める。また書きあがった論文は、国内外の査読雑誌に積極的に投稿し、できるだけ早期に掲載されることを目指す。
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Research Products
(8 results)