2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21H01012
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
篠北 啓介 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (60806446)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光物性 / 半導体物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、モアレ超構造を利用して励起子を精密に自在配列し、その相互作用を高度に制御することで、協力現象を最大限に活用し、超蛍光現象や単一光子超蛍光現象の実現や、さらに単一光子と物質が相互に作用しあって生じる全く新しい巨視的な量子光学現象を探究し、それらを支配する普遍的な物理を明らかにすることを目的としている。モアレ超構造を利用してこれまでに実現されていない高配列・高密度な励起子集合体となる新たな量子システムを構築し、従来の光と物質の相互作用の枠組みを超えた新たな量子光学現象の発現を目指す。本研究を通して、単一光子レベルでの光と物質の相互作用の根源的な理解が深化され、基礎学術において大きなブレークスルーをもたらす可能性を秘めている。 令和3年度は、試料作製手法の改良、および、精密分光システムの構築による、モアレ励起子のエネルギー準位やバレー分極などのモアレ超構造の基礎光学特性の解明をおこなった。まず、ポリマーと温度制御を用いて試料の作製技術を改良することで、1meV以下の線幅の高品質モアレ超構造の作製が可能になった。また、第二次高調波発生(SHG)装置を構築し、積層角度を1度以下の精度で測定が可能になった。さらに、精密分光システムを新たに構築し、円偏光分解発光測定を行い、WSe2/MoSe2原子層ヘテロ構造におけるモアレ励起子のスピン一重項や三重項の微細構造やバレー分極状態などのモアレ超構造の基礎光学特性を明らかにした。 今後は、それらを発展させ、系統的な試料作製手法の確立や、精密発光イメージング分光システムの構築を行い、超蛍光現象の観測を目指し研究を進めていく。強度が非線形に増大し放射レートが短くなることや、複数の発光ピークから一つの発光ピークだけが成長する様子を観測し、超蛍光現象を実証する。物質の組み合わせや、積層角度、温度などのパラメータを精密に制御しながら、超蛍光現象の観測を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、令和3年度に行う主要な部分として、試料作製手法の改良、および、精密分光システムの構築による、モアレ励起子のエネルギー準位やバレー分極などのモアレ超構造の基礎光学特性の解明をおこなった。まず、PDMSやPPCのポリマーと温度制御を用いて試料の作製技術を改良することで、1meV以下の線幅の高品質モアレ超構造の作製が可能になった。また、第二次高調波発生(SHG)装置を構築し、積層角度を1度以下の精度で測定が可能になった。さらに、従来のType2型の原子層ヘテロ構造に比べて振動子強度が高いと予想されるWSe2/MoTe2のType1型やMoSe2/WS2のハイブリッド型の原子層ヘテロ構造の作製も行い、その光学特性の解明に取り組んでいるところである。 また、精密分光システムを新たに構築し、円偏光分解発光測定を行った。WSe2/MoSe2原子層ヘテロ構造におけるモアレ励起子のスピン一重項や三重項の微細構造やバレー分極状態などのモアレ超構造の基礎光学特性を明らかにした。WSe2/MoSe2原子層ヘテロ構造で観測される複数の発光ピークの起源を解明し、超蛍光現象などの巨視的な量子光学現象を開拓する準備が整った。 これらの研究結果の進捗状況は、研究計画申請時の計画通りであり、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、高品質化した試料を用いて、モアレ超構造からの超蛍光の観測を試みる。まず、系統的に、積層角度を精密制御したモアレ超構造試料を系統的に作製するために、人工ヘテロ構造作製を画像認識とメカトロニクス制御に取り組む。さらに、試料の不均一性が大きい場合には、収束イオンビーム(FIB)等を用いて、試料のサイズを光の回折限界(~1 um)より小さく微細加工することで、不均一の効果を抑制することも検討している。試料のさらなる高品質化と系統的な作製手法の確立と並行して、超蛍光現象の観測のための光学系を構築する。超蛍光現象は面内での光放出という特徴を持つため、試料をGaSe上に転写し、面内に放射される超蛍光をGaSe導波路構造で伝播させ、GaSe端で検出する方法を検討している。励起した場所と違う位置からの光放射を検出するため、高感度CMOSカメラを導入し、発光イメージング測定系を構築する。励起子数の増大に従い、強度が非線形に増大し放射レートが短くなることを実証する。さらに、CMOSカメラの前に透過型回折格子を導入し、GaSe端で検出される光放射のスペクトル情報も抽出することで、モアレ励起子由来の複数の発光ピークから、励起強度を強くするにつれて、複数の発光ピークから一つの発光ピークだけが成長する様子を観測し、超蛍光現象を実証する。また、時間分解測定などから超蛍光の特徴となるパルス的な光放出の観測を試みる。Type2型のMoSe2/WSe2試料で超蛍光現象の観測が困難な場合は、WSe2/MoTe2のType1型やMoSe2/WS2のハイブリッド型の原子層ヘテロ構造を検討する。そのため、それらの基礎光学特性の解明を並行して行う。物質の組み合わせや、積層角度、温度などのパラメータを精密に制御しながら、超蛍光現象の観測を目指す。
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