2021 Fiscal Year Annual Research Report
Exploring higher-order topological states in van-der-Waals 2D materials
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21H01022
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Research Institution | NTT Basic Research Laboratories |
Principal Investigator |
若村 太郎 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 研究主任 (60898899)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋坂 昌幸 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 主任研究員 (80550649)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 原子層物質 / トポロジカル現象 / 超伝導 / スピントロニクス / 誘電体 / メゾスコピック物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題「原子層物質における高次トポロジカル現象の解明と制御」では、トポロジカルに非自明な性質をもつ原子層遷移金属ダイカルコゲナイドであるMoTe2及びWTe2に着目し、3次元バルク結晶において1次元の弾道的端状態が生成される「高次トポロジカル状態」を電気伝導現象を通じて観測することを目標としている。具体的には、超伝導臨界電流の磁場依存性における端状態由来の短周期フラウンホーファー振動の観測、また素子端に接合した強磁性電極を用いた端状態のスピン偏極伝導の観測、さらに素子端と素子内部の電流揺らぎ測定を比較することにより、端状態の弾丸的伝導状態の証明を目指している。さらに、空間反転対称性を持たない結晶構造に由来する非相反電気伝導現象、及び誘電分極と超伝導の結合による超伝導の電気的制御に関する研究も行う。 令和3年度は素子作製及び測定環境の整備、また超伝導トポロジカル物質MoTe2の基礎物性の評価、及び非相反電気伝導の観測を行った。MoTe2及びWTe2は大気中で不安定であるため、グローブボックス内で劈開及びヘテロ構造を作製するための条件出し、及びこのような物質に電極を取るための電極作製条件の最適化を実施した。このような素子作製工程を用いて、膜厚の異なる複数のMoTe2素子を作製し、10 mK ~数 Kの温度領域における超伝導特性及び磁気輸送特性、非相反伝導特性の評価を実施した。一連の測定により、膜厚を薄くすることによるMoTe2の超伝導転移温度の上昇、及び超伝導状態における非相反電気伝導現象の観測に成功した。 これらに加えて、本課題で実施する電流揺らぎ測定の準備として、これまで高抵抗の半導体2次元電子の測定で用いられてきた測定系を、MoTe2やWTe2のような低抵抗物質でも使用可能にするための改造を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は、「WTe2及びMoTe2を用いた素子作製工程の最適化」「極低温における電気伝導測定」さらに「MoTe2の超伝導状態の測定及びそれを通じた素子品質の同定」を行うことが出来た。特に作製が困難な、グローブボックスを用いたMoTe2ヘテロ構造、及び測定のための良質な電極の作製工程の最適化を実施し、今後のより迅速な測定の実現に向けた基盤整備を行った。加えて、入手先の異なるMoTe2母結晶を用いてヘテロ構造を複数作製し、低温における電気伝導測定の結果を比較することで、より高品質な母結晶を選定した。令和3年度の研究実施計画のうち、超伝導電流輸送現象を用いた高次トポロジカル絶縁層の端状態の電気伝導特性の解明に必要な「短周期フラウンホーファー振動の観測」及び「電流揺らぎ測定」は実施出来ていないが、令和4年度の目標達成に向け、前者に関しては極低温にてより低ノイズでの超伝導電流の測定環境の構築、また後者に関しては、これまで10 kΩ程度の電気抵抗を持つ半導体メゾスコピック系を対象として開発してきた電流ゆらぎ測定系について、低抵抗の原子層薄膜試料にも適用できるように改造を行った。従来の低温電圧増幅器を用いる手法は測定系の入力インピーダンスが高く、低抵抗試料に不向きであったため、低入力インピーダンスの低温電流電圧変換回路を作製し、これを用いた電流ゆらぎ測定系を希釈冷凍機に実装した。この成果をまとめ、Rev. Sci. Instrum.誌にて論文として発表した。 上記の当初計画していた測定内容に加えて、結晶構造が持つ空間反転対称性の破れに由来する非相反電気伝導現象を、非常に薄い超伝導状態MoTe2にて観測することに成功した。測定された信号の大きさはこれまで他の物質で観測されたものと比較して数桁以上大きいため、MoTe2の持つトポロジカルに非自明なバンド構造が関係している可能性が考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、まず極低温において十分低い電子温度が達成され、明瞭な超伝導状態が観測出来るかを確認するため、膜厚の異なるMoTe2に絶縁体である六角窒化ホウ素を介したトンネル接合を作製し、電極とMoTe2の間の微分コンダクタンスの測定により、MoTe2の超伝導状態におけるギャップ特性を調べる。これにより、MoTe2の持つ特異な超伝導状態の解明、及び電流揺らぎ測定で用いるトンネル接合の作製条件の最適化が可能となる。この結果を踏まえ、高次トポロジカル絶縁層の端状態に由来する短周期のフラウンホーファー振動の観測を実施する。また、MoTe2及びWTe2にて素子端からの長さが異なる複数のトンネル電極を用いて電流揺らぎ測定を実施する。このような電極構造を用いることにより、バルク伝導と端伝導の相対的な割合を変化させることが出来るため、端伝導とバルク伝導の電流揺らぎ強度を同定することが可能となる。また電流量も同時に同定することにより、高次トポロジカル状態特有のエッジ伝導の実証とする。このような電流ゆらぎ測定系は周波数領域の電流ゆらぎ評価を目的として設計しているが、ハイパスフィルタを追加するなど若干の修正を加えることで、サブマイクロ秒程度の分解能を持つ時間領域の精密電流測定にも使用可能である。これについて、昨年度に得られた実験結果をまとめ、論文として発表する。 加えて、昨年度に観測された超伝導MoTe2における非相反電気伝導現象の観測を膜厚の異なる複数の素子で行う。薄膜化することにより、ゲート電圧を用いた電荷密度制御、さらに上下2つのゲート電極を用いることで面直電場の印加が可能になる。このような特性を用いて、上記のフラウンホーファー振動、また非相反電気伝導現象のゲート依存性を測定する。また、結晶構造の空間反転対称性の破れにより生じる誘電特性を利用し、面直電場を用いた超伝導状態の電界制御にも挑戦する。
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Research Products
(5 results)