2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21H01044
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
田村 隆治 東京理科大学, 先進工学部マテリアル創成工学科, 教授 (50307708)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉本 貴則 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 講師 (70735662)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 準結晶 / 近似結晶 / 正20面体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、実験家と理論家が協働して、スピン正20面体結晶の磁気秩序・磁気構造・磁性制御法を明らかにすること、それに基づき、スピン正20面体特有の新物性や新現象を開拓・実現することを目的としている。 実験では、本年度はまず、平均価電子数を変えたときのスピン正20面体結晶の磁気秩序(強磁性、反強磁性、フェリ磁性、スピングラスなど)を明らかにし、磁気相図を完成させることができた。また、一部の反強磁性相については中性子回折実験を実施し、渦巻き型の反強磁性秩序を有することを明らかにした。合金系としてはAu-SM-R系(R:希土類)のスピン正20面体結晶を選定し、SQUIDを用いて平均価電子数を変えることで磁気基底状態や常磁性キュリー温度がどのように変化するかを詳しく調べた。その結果、平均価電子数に依存して常磁性キュリー温度が正負に振動するというユニバーサルな特徴を得ることに成功した。 一方、理論面では、まず、正20面体の複数の基底状態秩序相を、実験的に区別する方法として、それぞれの相の磁化過程に現れる差異をモンテカルロ・シミュレーションにより数値的に解析した。この結果、(双対)ヘッジホッグ反強磁性相と呼ばれる領域で、メタ磁性転移(スピン・フロップを伴う磁化率の異常)が現れることを新たに発見した。ヘッジホッグ反強磁性秩序は、正20面体特有のスピン構造であるため、この異常は、本研究課題の目標である「スピン正20面体結晶特有の物性」そのものであると言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
実験面では、当初予定していた磁気相図がほぼ完成したこと、また、一部の反強磁性相については中性子回折実験もすでに実施し、当初予定を上回る形で研究が順調に進行していると言える。一方理論面では、スピン正20面体結晶の基礎物性を明らかにするために、本年度は、これまでの研究で明らかになっていた基底状態秩序を実験的に区別する方法を探索した。その結果、異方性がない模型における磁化過程において、スピン正20面体に由来するメタ磁性転移が現れることを理論的に発見した。これは研究計画では予定していなかった重要な成果である。一方、異方性を導入した場合の、スピンアイスやモノポール励起に関しては、まだ従来のパイロクロア系との物性上の差異が見出せていないため、引き続きこの理論的解析を進める予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述した通り、一部の反強磁性相については中性子回折実験をすでに実施しているが、これまでの理論計算の予測を踏まえると様々な磁気構造が存在するものと期待される。従って、個々の磁気相の磁気構造の決定が今後の主要な課題となる。加えて、本年度に理論的に発見された、スピン正20面体に由来するメタ磁性転移は、これまでの実験的研究で既に観測されている可能性がある。これまで理論的なサポートがなかったため実験結果の詳細な解析が進まなかったが、今後これまでの実験データを精査し、より詳しく追加の実験的・理論的解析を行うことにより、実験的に実現可能なスピン正20面体物性の創出を目指す。さらに、スピンアイスやモノポール励起に関しても、従来系と差異が生じるセットアップを模索し、本系特有の現象の探索を行う予定である。
|