2022 Fiscal Year Annual Research Report
クライオ電顕画像から蛋白質の動的構造を描写するための新規計算科学手法の確立と応用
Project/Area Number |
21H01050
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中迫 雅由 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30227764)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | クライオ電子顕微鏡 / 蛋白質水和構造 / 機械学習 / X線回折・散乱 / 自由エネルギー地形 / 分子動力学計算 / 光受容蛋白質フィトクロムB / 光受容蛋白質フォトトロピン2 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)構築してきた三次元コンボリューション・フィルターを用いる水和構造予測ニューラル・ネットワークの概要と適用に関して、論文を投稿した。査読過程において、蛋白質ー低分子複合体における水和構造予測の有効性や、世界に現存する他の二つの水和構造予測ニューラル・ネットワークとの性能比較を要求され、これらへの対応を行った。その結果、本研究で開発した水和構造予測ニューラル・ネットワークが最高性能を持つことが明らかとなった。掲載受理後はプレスリリースを行い、新聞やインターネットなどで取り上げられた。 (2)電子顕微鏡を用いた構造解析については、これまでの電子顕微鏡と分子動力学計算による蛋白質運動の自由エネルギー地形解析について総合報告を行った。グルタミン酸脱水素酵素と補酵素混合溶液に対するクライオ電子顕微鏡構造解析では、複数の補酵素結合部位が見出され、この結果得られた補酵素結合経路に関する論文を投稿した。査読過程で酵素反応実験を二回実施し、構造解析結果の補強を行った。また、今後の研究で必要となる補酵素の力場パラメーターを、水中の補酵素分子に対する分子動力学計算を通じて検討した。さらに、酵素蛋白質-補酵素-基質三者複合体の構造解析に成功するとともに、次年度に向けた点変異体三者複合体の電子顕微鏡観察も実施した。 (3)光受容蛋白質phytochrome B、 phtototropin2の構造解析では、精製方法に改良を加えて、短時間でより凝集の少ない標品を得るプロトコルを考案した。また、SPring-8キャンパスにおいてこれら蛋白質を精製し、直後に電子顕微鏡観察やX線構造解析が行う体制を整え、実際に現地での精製に引き続き、X線小角散乱実験とクライオ電子顕微鏡観察を実施することができた。 (4)X線回折イメージングにおいて開発してきた構造解析達成指標をクライオ電子顕微鏡解析に適用することを検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請では、クライオ電子顕微鏡構造解析に基づいた、蛋白質の立体構造と機能の物理化学的理解に資するべく、立体構造変化経路と自由エネルギーの関係、水和構造予測を実用化し、その有効性を示すことを目的としている。これまでの進捗状況は下記のとおりである。 (1)クライオ電子顕微鏡で得られる蛋白質構造モデルに対する水和構造予測については、三次元コンボリューション・フィルターを用いたニューラル・ネットワークを開発し、水溶性蛋白質について、結晶構造で明らかにされた内部空隙や第一水和層の水和構造を85%以上の確率で予測できた。このニューラル・ネットワーク開発結果は、Scientific Reports誌に掲載され、プレスリリース後に新聞やインターネット上のメディアで取り上げられた。 (2)グルタミン酸脱水素酵素と補酵素混合溶液に対するクライオ電子顕微鏡構造解析では、酵素に補酵素が結合する場合、補酵素が直接最終結合位置に至るのではなく、複数の準安定な結合位置を逡巡している可能性が高いことが明らかになった。その結果をまとめて論文に投稿し、査読過程で新たな実験を追加実施した。また、グルタミン酸脱水素酵素-補酵素-基質三者複合体の構造解析に成功し、論文投稿準備に至ることができた。点変異体三者複合体についても構造解析を実施中である。また、画像分類に関連して、X線回折イメージング構造解析でのデータ処理や解析方法の援用を検討した。 (3)植物の光受容蛋白質フィトクロムBとフォトトロピン2については、従来の精製プロトコルを改善して、短時間で高純度標品を得ることができるようになった。フィトクロムBについては2020年に報告したX線小角散乱モデルと一致する低分解能三次元構造を得ることができている。フォトトロピン2については、コントラストが悪く、デフォーカス、包埋氷の厚さなどを検討する必要があることが明らかとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度の結果を踏まえ2023年度は、以下の三項目について研究を推進する。なお、クライオ電子顕微鏡観察およびX線回折・散乱実験は、これまでと同様にSPring-8において実施する。 (1)現在までの機械学習に基づく水和構造予測法では、結晶構造解析で得られた水和水分子位置と予測位置の間に若干の違いが生じている。この点を改善するべく、水和構造学習において、立体化学的な情報を含めることで、水和水分子予測位置精度の向上を図ることを試みる。また、膜蛋白質の水和構造予測モードを追加した後、国内研究機関のサーバーにおいて、このニューラル・ネットワークを公開し、国内外研究者による利用を検討する。 (2)酵素蛋白質-補酵素-基質三者複合体の構造解析を進めて、酵素反応前後での構造変化を明らかにするとともに、点変異酵素蛋白質の三者複合体についても構造解析を行い、点変異が蛋白質の取りうる構造にどのような影響をもたらすのかを明らかにする。これら構造解析については、2023年度中に論文を投稿する。また、可能であれば、クライオ電子顕微鏡で明らかになった立体構造を出発点とした分子動力学計算を試み、酵素蛋白質が補酵素や基質を捕獲する際の自由エネルギー変化を考察する。 (3)従来の解析を凌駕する大量の酵素蛋白質画像を取得して、これまでに開発した自由エネルギー解析法に準拠しながら、Diffusion Map法などを基盤としたスーパーコンピューターによる自由エネルギー地形の多様体学習を通じて、より正確な自由エネルギー地形描画を試みる。 (4)phytochrome Bについては、より高分解能でのクライオ電子顕微鏡解析のために、会合阻害条件を探索しながら試料調製を行う。phtototropin2では、精製後の分子凝集と、観察時のコントラストやデフォーカスに留意しながら、氷包埋された分子の像取得を試みる。
|
Research Products
(8 results)