2021 Fiscal Year Annual Research Report
狭ギャップ半導体の量子輸送制御による高環境調和型熱電変換シートの開発
Project/Area Number |
21H01358
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
都甲 薫 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (30611280)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 熱電変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
軽くてやわらかいプラスチック上に熱電材料を薄膜合成した「フレキシブル熱電変換シート」は、IoT社会で不可欠となる微小エネルギー(μW~mW)を利用したセンサやウェアラブル・デバイスへの応用が期待されている。その社会実装には、無毒で安全かつ高い信頼性をもつエコマテリアルの選択が重要となる。本研究では、狭ギャップ環境半導体であるGe系IV族混晶の熱電薄膜としての高いポテンシャルを実証する。研究代表者はこれまで、プラスチック上Ge膜においてキャリアの粒界障壁を劇的に低減し、多結晶薄膜として世界最高のキャリア移動度を達成した。本技術をベースとし、「混晶」「粒界」「フェルミ準位」の3要素と量子(キャリア・フォノン)輸送特性の相関を解明・制御するとともに、高環境調和型熱電変換シートとして最高性能(室温、微小温度差でμW出力)を実証することを目的とする。 本年度は、IV族材料2元混晶(GeSiおよびGeSn)において、電気的特性を簡易に制御可能な拡散材塗布による不純物ドーピングを検討した。その結果、p型およびn型伝導制御を可能とするとともに、両材料において、Geを凌駕する優れた熱電性能を実証した。性能向上にあたり、GeSiにおいては低い熱伝導率(フォノン散乱助長)、GeSnにおいては高い導電率(キャリア散乱抑制)の寄与が大きいことが明らかとなった。次年度においては、3元混晶化による熱電特性の高性能化、およびプラスチック上展開に向けたプロセス温度の低減を検討していく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、狭ギャップ環境半導体であるGe系IV族混晶の熱電薄膜としての高いポテンシャルを実証することを目的としている。本年度は、(1)混晶・粒界フォノン散乱を利用した熱伝導率の低減、および(2)高濃度ドーピングによるp型/n型薄膜の出力因子向上を当初目標として研究を遂行した。 (1) 混晶・粒界フォノン散乱を利用した熱伝導率の低減 研究代表者のシーズ技術である多結晶Ge薄膜の熱伝導率は、熱電材料としては未だ高い。本項目では、非晶質Geの成膜中にSiやSnを蒸着することで、Ge1-xSixおよびGe1-x-ySnyの2元混晶を作製し、それらがフォノン輸送(熱伝導率)に与える影響を調査した。SiやSnを多量に添加した場合、フォノンの合金散乱により熱伝導率は確かに低下したが、結晶性の劣化が顕著となり、出力因子が大きく低下した。そこで、微量なSiおよびSn添加を検討したところ、出力因子を大きく劣化させることなく、熱伝導率を低減させることが可能であると判った。 (2)高濃度ドーピングによるp型/n型薄膜の出力因子向上 一般にSiGeの出力因子は、導電率とゼーベック係数のバランスにより、キャリア密度が1019-1020 cm-3付近で最大値をとる。本項目では、電気的特性を簡易に制御可能な拡散材塗布による不純物ドーピングを検討した。その結果、p型およびn型伝導制御を可能とするとともに、Ge1-xSixおよびGe1-x-ySnyの両材料において、Geを凌駕する優れた熱電性能を実証した。性能向上にあたり、GeSiにおいては低い熱伝導率(フォノン散乱助長)、GeSnにおいては高い導電率(キャリア散乱抑制)の寄与が大きいことが明らかとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初計画通り、IV族材料2元混晶(GeSiおよびGeSn)のメリットを併せ持った3元混晶GeSiSn薄膜を検討し、熱電特性のさらなる高性能化を目指す。また、プラスチック上合成に向けたプロセス低温化を志向し、以下の2項目を研究する。 (1)3元混晶化による熱伝導率の低減 上述の通り、単体Geと比して、2元混晶であるGeSiにおいては熱伝導率の低減、GeSnにおいては導電率の向上という、異なる効果が見られた。本研項目では、これらの利点を併せ持った3元混晶GeSiSnの成膜を検討する。非晶質Geの成膜中にSiやSnを同時蒸着することで、Ge1-x-ySixSnyの組成を制御し、その組成に応じた最適な結晶成長温度、不純物拡散温度を明かにする。得られたp型、n型膜について、組成が熱伝導率および導電率(出力因子)に与える影響を系統的に調査するとともに、熱電性能(無次元性能指数)の更新を図る。 (2)プラスチック上展開に向けたプロセス温度の低減 これまで、簡便な不純物ドーピング(電気的特性の制御)が可能な拡散材塗布によって伝導型およびキャリア密度を制御してきた。しかし、本法は拡散速度の遅いp型ドーパントについては、拡散にプラスチックの耐熱温度以上の高温を要する。そこで本研究項目では、プロセス温度の低減に向け、非晶質薄膜中にあらかじめドーパントを添加しておき、結晶化熱処理とともにドーパントを活性化させる手法を検討する。本法を用いた場合、単体Geにおいては低温でn型伝導制御が可能であると判っており、2元混晶および3元混晶に対しても有効であると期待される。
|
Research Products
(11 results)