2022 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of internal absorption loss for high-Q silicon nanocavities and the development of novel functional optical devices
Project/Area Number |
21H01373
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
高橋 和 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20512809)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フォトニック結晶 / シリコンフォトニクス / ナノ共振器 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目である2022年度は、装置購入におけるトラブルが発生したため、翌年度に課題を繰り越した。ここでは2022年度、2023年度の成果をまとめて記入する。なお、想定外の研究結果が得られたため、2023年度の課題は2024年度に繰り越している。 【吸収損失の原因特定】シリコンナノ共振器の吸収損失の正体と消去メカニズムの解明を、近赤外低温カソードルミネッセンスによる欠陥分析、欠陥を消去する熱処理の最適化、顕微分光測定によるデバイス評価を三位一体で進めた。その結果、原因を突き止めることに成功して、吸収損失を除去するプロセスを開発することにも成功した。開発したプロセスを用いると、CMOS作製されたシリコンラマンレーザをほぼ100%の歩留まりで発振させることができた。特許出願して、PCT出願も進めている。 【性能向上について】CMOS互換プロセスで作製したナノ共振器の最高Q値を350万から670万に更新した。フォトマスクのグレードの差による作製精度の違いを詳細に検討した結果、さらなるQ値向上には内部吸収損失の除去よりも、フォトリソグラフィ精度を向上する方が効果が高いことが分かった。機械学習を用いて、空気孔配列の空間対称性を崩して設計されたナノ共振器では、作製精度に起因する構造揺らぎによるQ値のばらつきが抑制されることを理論、実験両方から実証した。 【機能拡張について】1.05 umの共振波長を持つナノ共振器において1万のQ値、1.10 umのナノ共振器において3.8万のQ値を得た。さらに、このナノ共振器からラマン散乱光が1.2 umのナノ共振器よりも5倍以上増強して放出されていることを確認した。1.1 um帯におけるシリコンラマンレーザ開発に展望が開けた。その他、端面出射強度を高めたラマンレーザ構造の実証、ラマンレーザによる空間電荷検知の安定性向上の成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトの最重要テーマであった「ナノ共振器内部の吸収損失の正体と消去メカニズムの解明」に成功した。この進歩により、CMOS作製されたシリコンラマンレーザを歩留まり100%で発振させることができた。 研究期間内で達成することを目標としていた1.2 um帯で動作するシリコンラマンレーザを1年目から実現できたことで、1.1 um帯で動作するラマンレーザ開発に着手できた。理論予測に近い実験Q値が得られ、さらにラマン散乱の増強が理論予測以上に得られた。これにより、究極的なラマンレーザである電流注入モノリシックシリコンラマンレーザ開発に展望が開けた。 CMOS互換プロセスで作製したナノ共振器の最高Q値を670万に更新することができた。研究開始時点の2.7倍の大きさである。さらに、歩留まり100%で200万以上のQ値が得られた。さらなる高Q値化に向けた方針も明らかにできたことで、今後もQ値を高められるだろう。さらに、空気孔配列の空間対称性を崩した共振器の方が、対称性を有する共振器構造よりも、構造揺らぎに堅牢であることを発見した。どんなに作製精度を高めたも対称性は完全にはならない。基礎学術だけでなく産業応用上も重要な結果となる。 空間対称性を崩したナノ共振器、フォトニック結晶導波路を用いた空間電荷検知、CMOSプロセスで作製されたナノ共振器の最高Q値670万、端面出射強度を強くしたシリコンラマンレーザについて4本のフルペーパー論文を発表した。1.1 umナノ共振器からの増強ラマン散乱、シリコンラマンレーザによる空間電荷検知など、OpticaとIEEEの国際会議プロシーディング4本に発表した。招待講演は10件行った。発明を2件出願して1件はPCT出願手続き中である。予想を上回る成果がとくに産業応用において得られており、大学発スタートアップを立ち上げることを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
想定以上に研究が進んで、予定していた課題はほぼ全て達成された。一方で、「ナノ共振器内部の吸収損失の正体と消去メカニズムの解明」に成功したことで、ナノ共振器の製造方法を大幅に見直すことで更なる機能拡張が達成できる可能性が提示された。そこで、2023年度の課題を2024年度に繰り越している。研究4年目となる2024年度は、ナノ共振器の機能拡張と性能向上を以下の方針で進める。 【性能向上について】吸収損失の原因となっている元素についてSIMSを用いて調べる。その結果をもとに、内部吸収損失が生じえない作製プロセスの確立、アニールプロセスの最適化などを行い、更なる高Q値化を目指す。EBを用いて作製されたナノ共振器の最高Q値1100万の更新を目指す。空気孔側壁の傾きがシリコンラマンレーザのQ値に及ぼす影響が重要と分かってきており、計算と実験の詳細な比較を行う。 【機能拡張について】ラマンレーザの動作波長を短波長化することに注力してきたが、近年、C-bandよりも長波長側の需要が高まっている。そこで、1.6 um帯で動作するシリコンラマンレーザを作製して性能を調査する。理論的にはラマン散乱確率が下がるが、一方で、高Q値が得られやすくなるためレーザ発振は可能と予測される。つづいて、産業応用に向けてファイバモジュール化したシリコンラマンレーザの製作に取り組む。モジュール化した形態でもレーザ発振が可能か、どの程度の性能が得られるのか調査する。モジュールを用いてラマンレーザの温度依存性の評価や、パルス応答動作まで研究を進展させたい。 【新たな展開】新たなナノ共振器の応用分野として人工衛星を考えている。宇宙空間は放射線が多い環境である。高Q値シリコンナノ共振器に中性子や陽子を照射したときの放射線耐性を調べる予定である。この3年で得られた成果を社会実装するために、大学発スタートアップを立ち上げたい。
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