2021 Fiscal Year Annual Research Report
海溝沈み込みプレート表層デコルマ帯の固着域生成とすべりの地盤力学的解釈
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21H01427
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
飯塚 敦 神戸大学, 都市安全研究センター, 教授 (40184361)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 地盤力学 / デコルマ帯 / 弾塑性材料 / 鉱物変質 / 境界値問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は,海溝型地震発生の鍵を握っていると考えられている海洋プレート表層部のデコルマ帯の海溝部滑り込み時の変質に伴う力学特性変化を非線形弾塑性理論によって解釈し,プレート境界断層の固着域の生成やゆっくり滑りのメカニズムを土・水連成境界値問題として説明することにより、地震学への地盤力学の積極的な貢献を果たそうとしている.そのため,①デコルマ帯のスメクタイト鉱物のイライト化への変質に伴う粒状特性の具備とその力学特性の弾塑性構成理論化,②スメクタイト鉱物のイライト化への変質過程で生じる鉱物内からの脱水の場の支配方程式への考慮(デコルマ帯で鉱物の変質が生じていると考えられる深度で間隙水圧の発生が観察されている),③非線形弾塑性構成理論と間隙水の生成と移動との連成場としての初期値境界値問題の構成とその解析を実施しなければならない.本年度においては,イライト系粘土とスメクタイト系粘土に対する弾塑性構成式の理論構造の比較から,イライト化への変質率を入力パラメータとして定義して,スメクタイト鉱物の粘土からイライト化に伴う力学挙動変化を記述できる弾塑性構成式を構築した。次いで,粘土鉱物が構成する固相構造体と間隙に充填している間隙水との連続条件を混合体理論に基づいた質量保存則より導出した。このとき,スメクタイト系粘土がイライト系粘土に変質する過程で生じる鉱物内部から粘土構造間隙への水の移動の考慮が重要と分かった。スメクタイト鉱物の層構造内部の水分子が,イライト化に伴って鉱物内から間隙に排出されるのである。変質率パラメータは実はこの間隙への水の移動の割合によって定義しなければならない。以上の検討と考察から,上記の①と②の理論構築を行った。しかし本来は,理論のフレームワークを確かめる一連の室内力学試験を計画していたが,コロナウイルスの感染拡大によって,実施することができなくなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては,イライト系粘土とスメクタイト系粘土に対する弾塑性構成式の理論構造の比較から,イライト化への変質率を入力パラメータとして定義して,スメクタイト鉱物の粘土からイライト化に伴う力学挙動変化を記述できる弾塑性構成式を構築したが,その変質は,プレートの沈み込みに従って,深度15km付近,約150度の温度・圧力環境下で徐々に生じている。でデコルマ帯のスメクタイト系鉱物がイライト系鉱物に変質している。スメクタイト系粘土は,土粒子密度が小さく(約2.35g/cm3),吸水膨張性が大きいが,強度は低い(モンモリロナイトを主成分とするベントナイトの場合,φ’=11度程度).イライト系粘土は,土粒子密度(約2.75g/cm3)で,ダイレタンシー特性を有し,強度が高い(φ’=30度程度).このように大きく力学特性が変化することから,「徐々に変質」を如何に記述するかが,デコルマ帯が海溝部で果たす力学作用を理解するのに重要となる。本研究では,徐々に進行する変質を記述するのに,変質率パラメータをスメクタイト系鉱物内から間隙へ排出される水の移動の割合によって定義することを考えた。そのために,イライト粘土とベントナイト粘土を用いた一連の室内物理・力学試験の実施を計画したが,コロナウイルス感染拡大の影響により,その実施を断念した。それに代わるものとして,スメクタイト系粘土の弾塑性構成式からイライト系粘土の弾塑性構成式に連続的に変化できる弾塑性理論の構築を試み,スメクタイト系鉱物内から変質に伴って間隙に排出される水の移動を考慮した連続条件式を導出することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度においては,本研究の主題である,土の非線形構成理論を用いたデコルマ帯の変質に伴う力学特性変化の記述の適切性の確保と理論的精緻性の完備を目指す。スメクタイト系粘土の代表であるベントナイト粘土の弾塑性構成理論に詳しい研究者を一名研究分担者に加えることによって,より完成度の高い理論化をはかる。放射性廃棄物の地層処分分野において,ベントナイト粘土の物理特性や力学特性が調べられている。ここで実験により得られた知見を本研究では最大限に活用する。ただし,本研究においては,デコルマ帯において海溝すべり込み部分で徐々に生じるスメクタイト系粘土からイライト系粘土への変質による影響の考慮が重要であることから,変質の進行度合いを記述する変質率の適切な定義と弾塑性構成理論への定式が求められる。変質に伴って,スメクタイト鉱物内の水が粘土の間隙に移動するとなると,地盤力学で用いられている「土粒子実質部分の密度は変化しない」という仮定が成り立たなくなる。混合体理論に立ち戻って,連続条件式を導き直す必要がある。さらに,この水の移動が変質の進行を示す物理的指標であると考えられるから,変質率の定式への考慮が必要になる。次年度において,以上の観点から研究を推進する。
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Research Products
(2 results)