2022 Fiscal Year Annual Research Report
Numerical model for evaluating the safety of products from the sea towards the realization of a marine environmental risk map
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21H01543
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
西 佳樹 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (70470052)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海洋汚染 / 環境リスク / 河川水 / 沿岸域 / 海洋モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、海洋汚染を原因とする環境リスクを評価する手法を構築する3年計画の取り組みである。本研究が目指す環境リスク評価は、リスクの時間変動と空間変化を考慮に入れたものである。そのために数学モデリングとコンピューターシミュレーションとを主な手法として採用している。本年度は本プロジェクトの2年目であり、初年度に開発したモデルの精緻化と、実現象再現性チェックのための検証に注力した。本研究が取り上げる物質は難分解性有機汚染物質と総称されるものであり、多様な経路で海へ負荷されていると報告されている。河川は経路の一つとして重要であるため、河川水拡散シミュレーションモデルの開発を行った。本事業代表者らが過去に開発したモデルを土台として、必要に応じて改良を加えることで理論式をコード化した。特に、移流スキームの実装に注意を払った。開発したモデルを、河川水の急激な増加時期における強潮流域に適用した。また、モデル検証に用いる観測データを取得するため、相模湾酒匂川河口沖において海洋観測を行った。河川水に含まれている汚染物質は、海への流出後当面は河川水由来の海水とともに移動すると推測されることから、この海水移動が汚染物質動態の指標となり得る。このことを踏まえ約80点の観測サイトにおいて水面から水深30メートルまでの点での水温と塩分とを計測した。河川水由来の低塩分水が薄層を形成しながら沿岸に沿って広がっている様子が観測された。また、リスク受容者である魚類とヒトの体内における汚染物質の動態のモデリングにも着手した。生理学・薬物動態学の知見を応用し、さらに、現象の不確定性を考慮に入れて理論を構築し、分配係数などの未知のパラメータは物理化学で知られているデータを参照しつつ定め、コードを実装し計算を試みた。魚類の計算結果は、入手できた先行研究の実験値と比較し、概ねの再現性を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、難分解性有機汚染物質の物理・化学・生物的側面での各現象を、確率論を土台として理論的に記述し、その理論をプログラムの形で計算機の中に実装することができた。海洋に存在する食物連鎖系において高次に位置するマグロを取り上げ、その体内に蓄積する汚染物質を計算するために、物質の収支を伊藤型確率微分方程式の形式で記述した。確率微分方程式の解にはランダムに変動する項が含まれ、このことにより解の不確定性が表現される。計算機において出力した解を解析することによって確率分布関数を作成し、それを観測から作成された同関数と比較することで検証した。両者の概ねの合致が確認できたことから理論の妥当性が確認できた。本研究が作成しているリスク評価手法を構成する各モデルの中で最も大きい空間規模を扱う海洋物理モデルのコードを改良した。同時に相模湾に河口をもつ酒匂川河口において熱塩場の観測を実施した。モデルによる計算値と観測値とを比較した。塩分と水温共に良好な一致が見られた。しかし、観測では水温の鉛直分布に階段状形状が検出されたが、計算では同時刻同地点の鉛直分布が滑らかな形状となった。この点については海水の拡散効果の部分に改良を要すると思料された。
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Strategy for Future Research Activity |
コンピュータベースの環境リスク評価ソフトウェアの構築を目指す本研究計画は、2023年度が最終年度となる。そのソフトウェアの本体は、大スケール現象から小スケール現象を包括的に含むモデリングである。過去2年度において大スケール現象の開発には目途が立ち、小スケール現象は予備的検討を終えたところである。リスク受容者であるヒトおよび魚類の化学物質摂取と体内での動態を近似的に再現するモデル構築が今後の主眼となる。理論的な検討、プログラム実装、数値計算を進める。さらに、個々に開発したプログラムを統合し、ひとつのリスク評価モデルとして形を成すようにする作業を進め、最終的には汎用性と使いやすさとに配慮したひとつのソフトウェアとして完成させる。
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Research Products
(2 results)