2021 Fiscal Year Annual Research Report
多元素固溶効果を用いた微細組織制御による高容量蓄電池正極材料の創成
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21H01646
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
河口 智也 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00768103)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
市坪 哲 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (40324826)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 二次電池 / ハイエントロピー酸化物 / 酸化物正極材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,リチウムイオン電池などに用いられる酸化物電極材料に対して,多数の元素を固溶した際に現れるハイエントロピー効果が,微細組織形成・電極性能に与える影響とその機構を調査することを目的とする.また本研究を通じて,多元素混合時の微細組織形成挙動,微細組織により誘起される弾性歪,弾性歪の存在下における多元素の電荷補償反応と電子状態などを実験的・計算的に明らかにしつつ,それらを記述する学理構築を目指す. 初年度に当たる2021年度は,上記の検証に適した系と考えられる材料として,岩塩型構造を有する酸化物系統とスピネル構造を有する酸化物系統の組成設計並びに,合成と基礎的な電気化学試験による,候補材料のスクリーニングを実施した.スクリーニングの結果,配置エントロピー向上効果により,これまでにない元素の組み合わせで,狙いの構造の合成が可能であることが明らかになった一方,ハイエントロピー材料の先駆けとも言える金属材料系とは異なり,酸化物系では構成する陽イオン(カチオン)の電気陰性度の違いに応じて,合成時にカチオン間の電荷の再分配が自発的に起こることが明らかになった.つまり,構成元素を狙った価数状態で単相の酸化物中に留めるためには,慎重な組成の設計はもちろん,合成時の雰囲気や温度の精密制御が必要であり,これらの制御が不十分な場合には,高価数を有する異相不純物酸化物の生成や,いわばゼロ価とも言える構成元素の金属の析出なども見られた.しかし,組成と合成条件の最適化により,検証したいくつかのハイエントロピー酸化物の中には,これまでの既存の材料では見られなかった機構により,イオンが脱挿入する系が見出されるだけでなく,蓄電池電極特性としても有望と考えられる材料系が見出された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べた通り,本年度では候補材料のスクリーニング,合成条件の最適化,基礎的な電気化学試験を実施することで,より詳細な調査を行う系の選定を行った.その結果,岩塩型構造を有する系において,これまでに見られない脱挿入機構による充放電が観測された兆候があったため,さらに酸化物正極粒子の形態の最適化,充放電条件の最適化を行うとともに,走査型電子顕微鏡観察,元素分析,X線構造解析等を実施することで,基礎的な充放電機構の解明を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,現在までに得られた電極材料の長期的な充放電試験を実施するとともに,その劣化機構の解明を実施する.また,X線吸収分光法や軟X線発光分光法,透過型電子顕微鏡観察等を用いることで,充放電機構の解明を行う.さらに,ハイエントロピー化の効果と,それぞれの構成元素が存在することによる影響を見極め区別するために,現在分析と試験を行っている七元系を基礎組成として,そこからいくつかの元素を「減算」した試料を合成し,同様の分析を実施することで,ハイエントロピー化の効果やそれぞれの元素の特徴がどのような物性において顕在化するのかを明らかにする.また,1年目において狙いとする系が選定できたので,第一原理計算等の手法を用いて電位や充放電メカニズムのモデル構築を行うとともに,より電極特性が良いと期待される系の探索を実施する.
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