2021 Fiscal Year Annual Research Report
Mechanistic study and control of combined toxicity of nano/microplastics and chemicals toward microorganisms
Project/Area Number |
21H01696
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
新戸 浩幸 福岡大学, 工学部, 教授 (80324656)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 出芽酵母 / 分裂酵母 / ポリスチレン粒子 / 陽イオン界面活性剤 / 陰イオン界面活性剤 / 複合毒性 / 材料/細胞界面 |
Outline of Annual Research Achievements |
「微生物に対する微小プラスチックと合成界面活性剤の複合毒性効果」を「界面現象」として捉え、メカニズム究明を試みた。当該年度では、微生物として出芽酵母および分裂酵母に、微小プラスチックとして粒子径100~200 nm程度の正帯電ポリスチレン(PS)粒子に、合成界面活性として陰イオン界面活性剤のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および陽イオン界面活性剤の塩化ドデシルトリメチルアンモニウム(C12TAC)に限定して実験を行った。酵母に対する正帯電PS粒子およびイオン性界面活性剤の曝露環境として、水溶液中のNaCl濃度5~600 mM、温度4℃または25℃に設定した。得られた研究成果の概要を以下に述べる。 正帯電PS粒子のみを曝露した場合、NaCl濃度が低下するにつれて、酵母に対する粒子付着量は増加し、酵母の死滅率も上昇した。ただし、分裂酵母に対する粒子付着量は、NaCl濃度100~600 mM領域において、NaCl濃度とともに上昇した。温度が低下すると、粒子付着量はわずかに低下し、酵母の死滅率が劇的に低下するNaCl濃度領域(100 mM for 出芽酵母, 5~25 mM for 分裂酵母)があった。 正帯電PS粒子および陰イオン界面活性剤SDSを5 mM NaCl水溶液中で曝露した場合、SDS濃度が上昇するにつれて、出芽酵母に対する粒子の付着量および細胞毒性は減少し、ついには両者がゼロとなった(相殺作用)。さらに、SDS単独でも細胞毒性を示すSDS濃度にまで上昇すると、粒子付着量がゼロのまま、細胞毒性が100%にまで急上昇した。 正帯電PS粒子および陽イオン界面活性剤C12TACを5 mM NaCl水溶液中で曝露した場合、粒子とC12TACが各々単独ではほとんど細胞毒性を示さない低濃度領域であっても、両者が共存すると出芽酵母に対する細胞毒性が著しく上昇した(相乗効果)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
粒子濃度・界面活性剤濃度を系統的に設定した上で曝露試験を行った後、粒子付着量および細胞死滅率を単一細胞レベルでフローサイトメーター(FCM)測定することによって、「出芽酵母に対するPS粒子とイオン性界面活性剤の複合毒性効果」を定量的に評価・実証することに成功した。本曝露試験では、「低濃度NaCl水溶液中に酵母が懸濁されたもの」と「イオン性界面活性剤が含まれた低濃度NaCl水溶液中に粒子が懸濁されたもの」を混合した。この曝露方法は、「酵母に対して粒子と界面活性剤を同時に曝露したこと」に相当する。他の曝露方法の一例として、粒子と界面活性剤のどちらか一方だけを一定時間曝露した後、もう一方を曝露するという方法も考えられる。 種々の濃度の界面活性剤水溶液にPS粒子を一定量投入し、吸着平衡に達した後に粒子を分離し、水溶液中の界面活性剤濃度(平衡濃度)を全有機体炭素計(本研究課題で導入)で測定することによって、粒子表面に対する界面活性剤の吸着等温線を得ようとした。吸着量はPS粒子の有無による界面活性剤濃度の差として定量化されるため、「有意な差」を得ようとすると多量のPS粒子が必要であることが判明した。当該年度に合成したPS粒子については、優先的に上記の曝露試験に使用したため、残念ながら吸着量測定のためには粒子量が不十分であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について、以下に列挙する: ・微小プラスチックのモデル粒子として、負帯電のPS粒子の他、正帯電および負帯電のアクリル樹脂(PMMA)粒子などを合成する。可能ならば、粒子表面に対する界面活性剤の吸着等温線を全有機体炭素計などによって作成することを鑑みて、当該粒子を大量合成する。 ・合成界面活性剤として、紫外可視光吸収性の芳香環を有するイオン性界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、塩化ベンジルジメチルデシルアンモニウムなど)を用いる。紫外可視光吸収度測定による界面活性剤濃度の決定は、全有機体炭素計による濃度決定と比較して、必要サンプル量が少なくて済むだけでなく、高感度であることも期待できる。 ・微生物として、真菌である酵母の他に、グラム陰性細菌(大腸菌など)およびグラム陽性細菌(乳酸菌など)を用いる。一般に菌体は酵母よりも小さいため、FCM解析において、粒子付着した菌体をノイズ(溶液中に残留する菌体デブリ、未付着粒子凝集体など)から識別できるよう、死菌染色剤と同時に全菌染色剤を用いる必要があるかもしれない。 ・市販されているポリマー微粒子懸濁液には、界面活性剤(しばしば名称非公開)が粒子分散剤として微量に添加されていること、微粒子合成時に生じたオリゴマーが充分に除去されず残留していること、などの危険性がある。市販の粒子懸濁液を用いて「微生物に対する微小プラスチックの毒性」を正確に評価するためには、(曝露試験に先んじて)透析や遠心などの分離・精製操作を行うことによって、残留する界面活性剤やオリゴマーをできる限り除去する必要があることが、我々の検討結果から明らかになった。しかし、報告されている数多くの文献では、そのような分離・精製操作を行わずに市販のポリマー微粒子懸濁液を曝露試験に用いているため、その試験結果を解釈する際には細心の注意を払う必要がある。
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