2021 Fiscal Year Annual Research Report
Development of new synthetic methods for bioactive compounds based on chirality control in living organisms
Project/Area Number |
21H01734
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
木野 邦器 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60318764)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 非リボソーム型ペプチド合成酵素 / アデニル化ドメイン / ジペプチド / ジケトピペラジン / 環状ペプチド / キラリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
我々が開発したアデニル化酵素を用いるキラリティ制御可能な革新的なアミド結合形成反応系を基盤として、新規機能性を有するアミド化合物の創製と効率的な合成法の開発を検討した。これまでにペプチド系抗生物質の生合成に関与する非リボソーム型ペプチド合成酵素(NRPS)のアデニル化ドメイン(Aドメイン)は、生合成酵素モジュールから切り出して単独発現させてもアミノ酸のアデニル化活性は維持され、しかも、生理基質であるL-アミノ酸のみならずD-アミノ酸やその他の数種類のアミノ酸もアデニル化するという興味深い現象を見出している。この現象に対し、異性化反応を担うEドメインさらには縮合反応を担うCドメインの上流に存在するAドメインは、基質アミノ酸の光学異性あるいはその種類に関わらずアデニル化する可能性があると推論し、そのようなドメイン構造を有するいくつかのNRPS由来Aドメインを用いて本仮説を実証した。 この実験的事実を踏まえ、α-ケト酸を含有するペプチド合成を担うNRPSにおいても、ケトレダクターゼドメイン(KRドメイン)の上流に位置するAドメインは生理基質のα-ケト酸に加えα-ヒドロキシ酸も基質にすると考えた。そこで、Streptomyces orinoci NBRC 13466由来ネオアンチマイシン合成を担うNRPSの中から候補となる3つのAドメインを選択して評価したところ、予想通り、全てのAドメインが生理基質であるα-ケト酸に加え、対応するα-ヒドロキシ酸を認識し、ケトイソ吉草酸など16種類のカルボン酸を基質とする合成可能なアミド化合物の拡張に成功した。 さらに、供給が可能になったD-アミノ酸を任意に含むジペプチドから特殊構造を有する環状ジペプチドであるジケトピペラジンの効率的な合成法を検討し、反応pHの重要性を明らかにし、その厳密制御によって高収率でのワンポット合成法の開発にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ペプチド系抗生物質の生合成を担うNRPS由来のアデニル化ドメイン(Aドメイン)をその構成モジュールから切り出して単独発現させることで、L-アミノ酸のみならずD-アミノ酸に加え他のアミノ酸をも基質にし得ることを明らかにし、その現象がNRPS内のエピメル化や縮合ドメインの配置と構成に依存する可能性を示して、いくつかのAドメインでその仮説を実証した。今回、そのドメインのNRPS内での配置と機能に関する仮説を、ケト酸を基質に含むペプチド系抗生物質の生合成に関与するNRPSに展開して、ケトレダクターゼドメインの上流に存在するα-ケト酸をアデニル化するAドメインが対応するα-ヒドロキシ酸を認識することを明らかにした。この成果は、D-アミノ酸を任意に含むジペプチドとそれから合成可能な環状ジペプチドであるジケトピペラジンに留まらず、ヒドロキシ酸を含むジペプチド、さらにはデプシペプチドやジケトモルフォリンといった多様な特殊構造を有するアミド化合物にも拡張が可能となり、その特殊構造に起因する新たな生理機能の創出につながるものと期待できる。 さらに、ジペプチドエステルからのジケトピペラジン合成は、分子内の自発的環化によって合成は容易に進行するが、酸性や塩基性では顕著に環化反応が抑制されるなど、反応pHの制御が重要であることを明らかにした。pHスタットを用いた反応リアクターを用いることで、L-TrpとL-Pro-OMeからのcyclo(L-Trp-L-Pro)合成では、対L-Trpモル変換収率40%を超える高収率を達成し、工業化への可能性を示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
新たな基質特異性を求めてNRPSのみならずドメイン構成が類似しているポリケチド合成酵素(PKS)由来のアデニル化ドメインも対象として評価を行う。また、α-ケト酸からα-ヒドロキシ酸の認識に関してアデニル化ドメインの特性を今回明らかにしたが、生物の厳密な制御システムに存在する曖昧さと柔軟性に注目して、解析検討を行う。エピメル化ドメインやケトレダクターゼドメインなど他の特徴的なドメインもアデニル化ドメインと同じようにモジュールから切り出し・単独発現させて機能評価を推進し、生物の生合成系の進化を構造生物学の観点から考察を行い、それらドメインのモノづくり技術への利活用の可能性を検討する。対象とする化合物はペプチドに限定せず、これまでに取得した多様なアデニル化活性を有するドメインを利用した化学酵素的アミド結合形成反応も駆使して、特殊構造を有する多様なアミド化合物の創製を推進する。 さらに、タンパク質修飾酵素や上記検討で見出されたNRPSやPKS由来のドメインなどを利用するアミド化合物の構造変換の可能性も検討し、その展開としてポリアミドや高分子化などの合成技術の開発検討も進める。ポリマー化に関しては、化学酵素的アミド結合形成反応の利用に加えて、我々が既に発見しているオリゴペプチド合成活性を有するアミノ酸リガーゼやtRNA合成酵素の利用なども検討する。 創出した各種アミド化合物の生理機能に関しては、市販のキットで評価が可能な抗酸化活性などを中心に検討する他、学内外の研究者との連携研究も実施して、有用な生理機能の探索も推進する。
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