2021 Fiscal Year Annual Research Report
超不活性空間での不安定化学種のボトムアップ構築による構造・物性の定常化と応用
Project/Area Number |
21H01737
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
上野 裕 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (00775752)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 靖次郎 京都大学, 化学研究所, 教授 (40314273)
青柳 忍 名古屋市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (40360838)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 内包フラーレン / リチウムイオン / クラスター / プラズマ / 不安定化学種 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,有機合成,およびプラズマを用いたフラーレン内部への原子・分子挿入法を併用することで,超不活性空間として知られるフラーレン内部における未踏不安定化学種のその場構築,および構造・物性の定常化を目指す.課題の達成により,未踏不安定化学種の構造・物性相関へアプローチするとともに,『不安定化学種の新科学』の開拓へ向けた研究基盤を構築することができる. 初年度は,当初掲げた標的分子①(一分子の水で水和されたリチウムイオンを内包したC60:Li+-H2O@C60)の合成を実施した.NMRスペクトルおよびX線構造解析による完全構造同定を達成しており,有機合成によるC60内部への小分子配置,およびこれに続くプラズマによるイオン挿入反応によりC60内部における未踏不安定化学種のその場構築が可能であることを実証した.また,内包化学種に対する緩和時間(NMR)測定において,特異な温度依存性が見られており,詳細な緩和時間測定を新たな課題として設定して実験を進めたい.本分子に関し,DFT計算および分子動力学シミュレーションを用いた気相中のLi+-H2Oクラスターとの構造の相違およびC60内部における運動に関する検討を実施中であり,これらの結果が得られ次第,成果報告を行う.また,標的分子②(リチウムイオンとヘリウム原子を内包したC60:Li+-H2O@C60)についても合成検討に入っており,2022年度中の単離を目指す.加えて,反応条件の検討,ならびに装置仕様の変更により,有機合成プロセスおよびプラズマプロセスによる内包フラーレン合成効率と安全性の向上も達成しており,次年度の実験に活用,迅速に研究を推進する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,初年度中に標的化合物の一つを単離し,完全構造同定を達成するに至った.また,効率面・安全面を向上させる装置改良もすでに実施済みであり,初年度の目標として掲げていた内容(化合物合成)についてはすでに達成されている.より詳細な実験のためには数mgスケールでの化合物合成が必要であり,初年度に最適化した合成条件に従って合成を進めている.実験的なアプローチについては十分な進捗が得られている一方,理論的なアプローチについては今後の検討課題として残されてしまっている.これは,『実験的に決定した構造』と『理論計算により推定される構造』の不一致の原因の解明に時間を要してしまったためであるが,原因を特定済みであり,速やかに計画していた理論的検討を実施する.これらの結果が得られ次第,標的分子①に関して成果報告を行う. 一方,内包化学種に対する各種分光分析において,NMR緩和時間の特異な温度依存性や振動分光における著しいスペクトル強度の低下など,当初想定していなかった結果が得られている.これらについては新しい課題として実験を進めており,広い温度領域における緩和時間測定および極低温における赤外スペクトルの測定を新たに計画している. なお,初年度最終月に発生した地震の影響で,装置の一部に不具合が発生してしまったため,早急に修復作業を進め,次年度の計画に掲げた標的化合物②の合成に着手する.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に掲げた内容についてはおおむね順調に進捗しており,2022年度前期を目途に初年度の成果報告を進めるとともに,次年度も当初の計画通り速やかに実験を推進する.具体的には,二年目の合成標的化合物として掲げている“リチウムイオンとヘリウム原子を内包したC60:Li+-H2O@C60”の合成と単離に着手し,2022年度中の精密構造決定を目指す.また,初年度に合成を達成した“一分子の水で水和されたリチウムイオンを内包したC60:Li+-H2O@C60”に対し,誘電特性をはじめとする物性探索についても着手する.当初の計画に加え,初年度の研究で得られた結果を基に設定した追加課題(温度可変NMRおよび極低温振動分光)についても2022年度に実施したい.
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Research Products
(6 results)