2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21H01796
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 陽太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30631676)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光起電力効果 / マルチフェロイクス / テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
テラヘルツ帯の光照射による光起電力の実現を目指し、特にマルチフェロイクスがテラヘルツ帯に有するエレクトロマグノン共鳴に着目した研究を進めている。当該年度は、代表的なマルチフェロイクスであるペロブスカイト型マンガン酸化物を対象に研究を行った。マンガン酸化物は最低温でサイクロイド型らせんにスピンが配列する。この時、スピン秩序由来の自発分極が生じる。このスピン秩序由来の反転対称性の破れは、バルク光起電力効果の必要条件のひとつである。また、ノンコリニアならせん型スピン構造により、テラヘルツ帯にエレクトロマグノンの共鳴が現れる。このエレクトロマグノンをテラヘルツ光で共鳴励起することで、2次の非線形光学効果のひとつである光起電力効果が期待できる。この現象は。バンドギャップよりもはるかに小さなフォトンエネルギーによる光起電力効果であり、シフト電流機構を介することで実現することが理論的に予想されている。我々はパルステラヘルツ光源を用いて、実証実験を行った。テラヘルツ光源は0.2-2.0 THzをカバーするスペクトル幅を持っており、マンガン酸化物のエレクトロマグノンの帯域をカバーしている。テラヘルツ光の照射により試料の両端に発生した光電流をプリアンプで増幅したのち、オシロスコープで観測した。測定の結果、テラヘルツ光に同期した電流発生が観測された。光電流は強誘電相でのみ観測され、常誘電相では消失した。この結果は、マルチフェロイクスがテラヘルツ帯の光起電力効果を示すことを明らかにしたものである。また、光起電力の大きさが、強誘電分極の大きなにスケールせず、特異な温度依存性を示すことが明らかになった。これは、従来の強誘電体のバルク光起電力効果とは大きく異なる傾向である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
テラヘルツ光を用いたバルク光起電力効果は、従来のバンド間遷移を用いたものとは一線を画す画期的な現象であり、これまで理論的な研究が先行しており実験的な報告は存在しない。本研究では、研究代表者のこれまでの成果を生かし、最適な条件を探ることでいち早くマルチフェロイクスにおける光起電力効果の実証に成功した。以上の理由から(1)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
マルチフェロイクスにおいて、スピン秩序由来の対称性の破れによりテラヘルツ帯で光起電力が実現可能なことが当該年度の研究で明らかになった。磁性由来強誘電性、エレクトロマグノンはいくつかのメカニズムが存在する。今後は、いくつかのマルチフェロイクスを用いることでテラヘルツ帯の光起電力効果と、それらのメカニズムについてどのような関係性にあるかを検証する。例えば、テラヘルツ光の偏光を変えることにより、異なる機構に由来したエレクトロマグノンを選択的に励起したり、逐次転移を利用して磁性強誘電性の機構の変化と光起電力効果の相関を調べる。以上の研究から、より効率的なテラヘルツ光起電力効果実現への指針を得る。
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