2021 Fiscal Year Annual Research Report
層間磁気結合による単分子磁石の磁気モーメントの制御
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21H01803
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岡 博文 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (70374600)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米田 忠弘 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (30312234)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スピン偏極STM / 単分子磁石 / 層間磁気結合 / TbPc2 / Coアイランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、強磁性/非磁性/強磁性の金属多層膜で用いられる「層間磁気結合」を応用することで、単分子磁石に働く磁気結合の強さの制御法を確立することである。そこで、まず磁気結合の強さを調整できる基板の作製に取り組み、その表面構造を走査トンネル顕微鏡(STM)により明らかにした。次に、得られた基板に単分子磁石を吸着し、その吸着構造を明らかにした。具体的には、以下の項目に取り組んだ。 (1)磁気結合の強さを調整できる基板の作製 Au(111)基板の清浄化、Coの蒸着、Auの蒸着、それぞれの項目毎にSTM観察を行った。その結果、Au(111)に特徴的なヘリンボーン構造と原子像の観察に成功し、Au(111)清浄面が得られていることを確認した。その後、Coを蒸着し、三角形状をもつ2原子層高さのCoアイランドがヘリンボーン構造の“エルボー”に周期的に形成されることを確認した。続けてAuを蒸着し、Auの蒸着量によりどのようにCo / Au(111)の表面がAuに覆われていくのかを明らかにした。この結果から、Auの蒸着量を調整することにより、Coと単分子磁石の間に挿入するAuの膜厚を調整できると考えられる。 (2)単分子磁石TbPc2の蒸着 上記(1)で作製したAu / Co / Au(111)基板に単分子磁石TbPc2を室温で蒸着しその吸着構造をSTM観察により明らかにした。Au(111)基板上と同様に、TbPc2はAu / Co / Au(111)基板上を拡散し、Au(111)やCoアイランドのステップエッジに多く吸着することがわかった。また、Auのテラス部分に吸着するTbPc2も小数であるが確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
液体ヘリウム供給施設の更新にともない年度の後半4ヶ月間、液体ヘリウムの供給が停止したため、超伝導磁石を使ったスピン偏極STMを行うことができず、予定していたAu / Co / Au(111)の磁気ヒステリシス測定による磁気特性評価が残ってしまったため、そのように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、作製条件を確立した磁気結合の強さを調整できる基板 [Au / Co / Au(111)] を用いて、単分子磁石と強磁性体との間に働く層間磁気結合について明らかにする。具体的には、以下の項目に取り組む。 (1)スピン偏極STMによる磁気ヒステリシス測定 清浄化したAu(111)基板上に、Coを蒸着し続けてAuを蒸着し、Au / Co / Au(111)基板を作製する。その基板上に単分子磁石TbPc2を蒸着する。単分子磁石TbPc2の磁気モーメントと強磁性体Coの磁化がどのように磁気結合しているのかを明らかにするため、スピン偏極STMによりTbPc2とCoそれぞれの磁気ヒステリシス測定 [Rodary, Oka, et al., APL 95, 152513 (2009)] を行う。また、磁気結合がTbPc2とCoを隔てる非磁性層Auの膜厚にどのように依存するのかを明らかにする。 (2)近藤共鳴ピークの検出 Au(111)基板に吸着したTbPc2では、STS測定によるdI/dVスペクトルにおいて、近藤効果に起因する明瞭なピーク(近藤共鳴ピーク)の観察に成功している [Tadahiro Komeda, et al., Nat. Comms. 2,217 (2011)]。一方、単分子磁石の磁気モーメントがある方向に安定に固定されている場合、そのピークは交換相互作用により2つに分裂する [Phys. Rev. Lett. 108, 087203, (2012)] ことが予想される。そこで、Coと層間磁気結合によりTbPc2の磁気モーメントが固定されていることを検証するため、Au / Co / Au(111)基板に蒸着したTbPc2のSTS測定を行い、dI/dVスペクトルに観察される近藤共鳴ピークが分裂するのかどうか明らかにする。
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