2021 Fiscal Year Annual Research Report
Creation of ultra-wide bandgap p-type transition metal oxides and device applications
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21H01811
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金子 健太郎 京都大学, 工学研究科, 講師 (50643061)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超ワイドギャップ半導体 / 準安定相 / p型酸化物 / パワーデバイス / 酸化ガリウム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の基幹材料であるp型酸化物のワイドギャップ化および新規材料の開拓を初年度の研究指針とした。まず、これまで申請者が合成を行ってきた酸化イリジウムについて、さらなる結晶性向上のため新しい前駆体を用いて合成を行った。その結果、従来の薄膜より明瞭なTEM画像が得られ、結晶性の向上が確認された。しかしながら、2021年1月からの急激なイリジウム価格の向上により元々高価なイリジウム前駆体原料の購入費の割合が当初の予算案よりも大きく上昇した。そこで、本研究のもう一つの目的である酸化イリジウムの代替となる新規の超ワイドバンドギャップ半導体p型材料の開拓を急ぐ事にし、p型特性の発現が予想されている酸化コバルト(α-Co2O3)、酸化クロム(α-Cr2O3)の初歩的な合成を達成した。 そして、さらなる代替材料として4.68 eVのバンドギャップをもち、p型とn型の導電性制御が理論的に予測されている二酸化ゲルマニウム(GeO2)薄膜の厚膜合成を世界で初めて達成した。基板は、格子定数が近くて同じルチル型の結晶構造をもつ酸化チタン(TiO2)を用いた。また前駆体の選定には、水蒸気雰囲気下で測定できる熱重量示差熱分析測定を活用し適切な分解温度をもつものを探し当てた。これまでの他機関の報告では、2020年に米国のコーネル大学とミシガン大学のグループから報告された、MBEを用いた結晶成長による10nm/h(4時間で40nm成長)という成長速度が最高値であった。しかし今研究において1.2~1.7μm/hという成長速度を達成し、従来の100倍以上の成長速度を達成した。さらに、同じルチル構造をもつ二酸化スズ(SnO2)との混晶薄膜を合成し、分光エリプソメトリーによる光学測定から、スズ組成の変化による光学バンドギャップ変調を確認し、初歩的なバンドギャップ制御を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、酸化イリジウムを基本材料としてバンドギャップの拡張と導電性制御を今年度の目的の一つとし、新しい前駆体を探索して用いる事で、その結晶性の改善を行った。しかしながら、「研究実績の概要」で記したように昨今の世界情勢の影響もありイリジウムの価格が急騰し、この目的の研究の継続が困難になり始めた。そこで、もう一つの研究目的である酸化イリジウム以外の新材料の開拓を急ぐことにした。当研究の最終目的は5.0 eVのバンドギャップをもつp型酸化物薄膜の合成とパワーデバイスへの応用である。これまで酸化イリジウムと酸化ガリウムを混晶化する事でp型特性を維持したまま4.2 eVのバンドギャップ変調を達成し報告してきたが、それ以上のバンドギャップ拡張には、さらなる酸化イリジウムの結晶成長条件の最適化を行う必要があり、新材料によるブレイクスルーは非常に有効だと考えた。 新材料の候補として、p型特性を発現する事が予想されている酸化クロム、酸化コバルトを用いて薄膜合成を行い、初歩的な成果は得られた。しかしながら、n型層にα型の酸化ガリウムを用いる場合、同じ結晶構造同士の接合ではあるが、ヘテロ接合となる。これは酸化イリジウムであっても避ける事が出来ない点である。理想的にはホモ接合によってデバイスを構成する事が望ましいが、酸化ガリウムはホールドープ等の手法で正孔が発生しても、自己束縛正孔が室温できわめて安定である事から正孔が結晶中を移動する距離が極めて小さく、デバイス応用可能なp型の作製が難しい事が理論的・実験的に確認されている。その酸化ガリウムの最大の弱点を克服する新材料として、p型とn型の導電性制御が理論的に予測されているGeO2の合成に成功した事は、当初の研究計画では不可能と思われていたホモ接合によるpn界面形成が現実的となり、目標を達成するうえで大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終目標である5.0 eVのバンドギャップをもつp型酸化物薄膜の合成とパワーデバイスへの応用に向けて、酸化イリジウムと二酸化ゲルマニウムを用いて達成を行う。酸化イリジウムは、今年度得られた高品質膜を用いて酸化ガリウムとの混晶を行い、その混晶比率を向上させる事を当初の目標とする。これまでの研究では酸化ガリウムの混晶比率は約60%で飽和してしまい、それ以上の混晶比をもつ混晶薄膜は作製出来ていなかった。新しい前駆体により得られた高品質の酸化イリジウム膜を用いて酸化ガリウムの混晶比率を60%以上として、バンドギャップが5.0 eVを超えてp型伝導を維持する酸化イリジウムガリウム膜の合成を目指す。また、酸化コバルト、酸化クロムの膜質向上とドーピング制御を詳細に行い、同様に酸化ガリウムとの混晶化による禁制帯幅の拡張を目指す。 一方で二酸化ゲルマニウムを用いる場合、二酸化ゲルマニウムのバンドギャップは4.68 eVであるため、二酸化シリコン(SiO2)など結晶構造が近くてより大きなバンドギャップをもつ酸化物との混晶化を行い、当初の目標である5.0 eV以上のバンドギャップをもつp型酸化物の実現を目指す。そのためには、今年度得られた二酸化スズ(SnO2)との混晶薄膜作製時の知見を活かす事が出来、前駆体の選定や結晶成長条件の最適化などを引き続き行う。また、p型およびn型伝導の発現のために正孔ドーパントや電子ドーパントの選定を行う。最終的にはp型およびn型伝導の制御を確認した後、pn接合を作製し、デバイスとしての電気特性評価を行う。
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