2022 Fiscal Year Annual Research Report
Study on potential energy surface for gas-phase vibrational strong coupling by IR spectroscopy and cavity-QED theory
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21H01879
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
松本 剛昭 静岡大学, 理学部, 准教授 (30360051)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安池 智一 放送大学, 教養学部, 教授 (10419856)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 振動強結合 / ポラリトン / 赤外分光 / ファブリーペロー共振器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、振動ポラリトンの生成と赤外分光プローブを気相中で行うことを目的としている。これを達成するために、(1)共振器特性の実験検証、(2)微小共振器を搭載したガスセルの開発、(3)振動ポラリトンに由来するラビ分裂を観測するための赤外レーザーシステムの立ち上げの二つを計画した。 (1)共振器のレーザー透過特性を調査する目的で、可視ダイオードレーザーを用いた干渉計実験を行った。透過前後のレーザー光強度比はおよそ1%であった。この値は、共振器フィネスに基づく自由スペクトル領域と共振器モードの線幅、そしてレーザーの発振線幅から理論的に得られた強度比にほぼ一致した。この結果を通じて、赤外領域で振動強結合を達成するための必要条件がより明確になった。さらに共振器の隙間からレーザー光を入射するときのレンズ条件の検証も行い、共振器のエッジに短焦点で入射する方法が最適であることがわかった。 (2)セル作成の前段階としてピエゾ駆動型のオープン微小共振器を作成した。CaF2基板に金コートした反射率99%の鏡を2枚作成し、これらをピエゾ駆動型並進ステージに固定したミラーホルダに装着した。ガスセル開発は設計段階である。共振器用の鏡と同径の円筒型セルとすることで、赤外プローブのためのレーザー進行方向に不要なガスが滞留しない工夫を施すことにした。 (3)赤外OPO/OPAシステムの立ち上げは、本来は製作者が米国から渡日して行う必要があるほど熟練した技術が必要であるが、コロナ禍による往来の困難さに伴い私たちが手探りで立ち上げざるを得ない状況となってしまった。しかしながら、製作者との質疑応答や同モデルのシステムを所有する国内研究者との対話を通じて、令和4年度末までにOPO/OPAシステムが使用できる目処が立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和4年度の当初研究計画では、(1)赤外OPO/OPAシステムの立ち上げとビーム特性評価、(2)振動ポラリトンの赤外プローブのための光音響分光用セルの開発、(3)気相振動ポラリトンのラビ分裂観測、(4)振動ポラリトンのポテンシャル鏡面解析、を遂行課題としていた。各項目の進捗状況は次のとおりである。 (1)赤外OPO/OPAシステムの立ち上げは、本来は製作者が米国から渡日して行う必要があるほど熟練した技術が必要である。コロナ禍に伴い私たちが手探りで立ち上げる状況となったが、製作者や国内研究者など当該システムに精通した面々との対話を通じてスペック値に近い赤外パルスを得ることができた。しかし、低次横モードを得るためのビーム整形や波数分解能を確認するためのキャビティリングダウン実験はまだ行えていない。 (2)光音響分光を行うためのマイクロフォンの選定は行ったが、気相振動ポラリトンのラビ分裂を観測することを優先させる方が良いと判断したため、音波測定のためのセル開発は停止している。一方、ラビ分裂の観測に向けた共振器特性の実験、および高圧の二酸化炭素を測定対象としたガスセル設計を継続したものの、年度内の観測には至っていない。 (3)ラビ分裂を観測するためのガスセル開発の前段階として、オープン微小共振器を作成した。特注の金ミラーとそのホルダ、およびピエゾ駆動型の並進ステージから成り、共振器間隔の制御が行えることを確認した。一方、振動ポラリトンを生成するためのセルを制作できていないため、ラビ分裂の観測には至っていない。 (4)共振器量子電磁力学に基づいて振動ポラリトンのハミルトニアンを構築し、その結果とポラリトンの赤外観測結果を比較することを計画していたが、光音響分光が実現していないため行えていない。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)共振器透過スペクトルを高分解能で観測するために赤外パルスのビーム整形を行う。最適化されたパルスのモード適性を試験するために、3μm帯の赤外スペクトルの測定をキャビティリングダウン分光法により行う。当研究室で波長校正用として用いているピロールクラスターのNH伸縮振動を観測することで、従来の差周波混合法による赤外パルス発生との差異(吸収線幅とスペクトル基線誤差)を検証する。 (2)光音響分光用ガスセルの製作を継続する。令和4年度に製作したオープン微小共振器を元にし、円筒形高圧ガスセルを製作する。ガスセル内部にマイクロフォンを装着し、赤外吸収による温度上昇から発生する音波を検出する。共振器の隙間にレンズを通して赤外パルスを導入し、BOXCAR積分器を通じて検出信号の処理を行う。 (3)共振器透過スペクトルの観測法を確立し、ラビ分裂を観測する。共振器方向から赤外パルスを入射し、波長を掃引して共振器透過スペクトルを観測する。これと同時に、連続発振型量子カスケードレーザーも共振器方向から入射して、共振器内部に強結合を補助する光子を注入する。ガスセル中にCO2を封入し、逆対称CO伸縮振動と振動強結合するよう共振器の長さを微調整して透過スペクトルを測定する。二酸化炭素の圧力および注入した赤外光子の個数をパラメータとしてラビ分裂を観測する。 (4)量子化学計算により評価したCO2のポテンシャルエネルギー曲面および永久双極子モーメントを用いて共振器量子電磁力学に基づく有効ハミルトニアンを構築する。このハミルトニアンを用いて振動ラビ準位を求め、実験で得られたスペクトルとの比較を通じてポラリトン形成に対するポテンシャルエネルギー描像を確立する。また、実験スペクトルの圧力依存性とシミュレーションとの比較により、共振器モードの実空間分布の定量的評価を行い、実験系の最適化のためのフィードバックを行う。
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Research Products
(14 results)