2021 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of photoionization process in condensed phase by using multiple excitation and development to high-efficiency electron transfer process
Project/Area Number |
21H01889
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮坂 博 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40182000)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
五月女 光 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (60758697)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 電子移動 / 光イオン化 / 多重励起過程 / フェムト秒ダイナミクス / ピコ秒ダイナミクス / 多光子吸収 |
Outline of Annual Research Achievements |
光誘起電子移動反応はエネルギー変換、人工光合成などにも深く関わる過程であり、その高効率化は重要な課題である。本研究では多重励起により生成した高位電子励起状態からのイオン化を利用し距離の離れた電子供与体-受容体間での電荷分離反応を進行させることで、(1)迅速かつ高収率に、 (2)高エネルギー、かつ (3) 再結合反応が遅い電荷分離状態の生成手法の開拓と確立を目的としている。2021年度は、以下の点から研究を行った。 ① 低エネルギーイオン化を可能とする特異電子状態の特定と機構解明:溶液中において、置換基を持たない芳香族化合物は迅速に(< 100 fs)光イオン化が進行するが、N,N-ジメチルアミノ基を有する芳香族化合物では、溶媒和の時間程度(数100 fsから数 ps)の時定数で光イオン化が観測される。この詳細を明らかにするため、ヘテロ芳香環化合物であるメチルカルバゾールの光イオン化を測定した。その結果“遅いイオン化過程“は、チッ素原子に正電荷が局在しうる化合物に共通の特徴であることが確認され、イオン化の前駆体としてRydberg状態のような電子状態を強く示唆する結果を得た。② 他分子への電子捕捉過程とその電荷分離(CS)状態の特性の解明:後続電子移動反応への利用という観点からは、電子を捕捉する分子の還元力が大きいことは重要な要件である。後続の捕捉収量を測定し還元電位との相関を解明するため、新たにナノ秒レーザーを導入し、数ミリ秒まで測定可能な過渡吸収装置を構築した。③ カチオン-電子間距離の見積もり:クーロン場内での拡散方程式に基づき、初期対間距離やその分布、などの種々のパラメーターを容易に選択できる数値積分プログラムを開発し、極性および無極性溶媒中の実測のイオン化状態の時間変化の解析を行うことで、極大距離や分布に関する詳細な知見の取得が可能となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、① 低エネルギーでイオン化を可能とする特異電子状態の特定と光イオン化過程の機構解明、② 他分子への電子捕捉過程とそのCS状態の特性の解明、③ カチオン-電子間距離の見積もりに加えて、 ④ 光イオン化の収率の決定 および、⑤ 電子放出分子および捕捉分子の開拓 の5点から研究を実施している。コロナ禍や半導体不足などの影響による物品の納入の遅延、またレーザー光源の故障もあったが、基本的には、ナノ秒レーザー計測システムは構築できており、また既存の他の計測システムも新たな部品を導入し本来の仕様で使用可能な状態にある。その結果、①から③については、上述のように進捗している。特に①の機構解明では、チッ素を含む芳香族ヘテロ環化合物でも遅いイオン化過程が観測されたことにより、中心力場を形成可能な局在したカチオン状態と遠方に存在する電子に対応するRydberg状態が、“遅いイオン化過程”を進行する特異電子状態であることが強く示唆された。この結果に基づき、計算化学の研究者と共同研究を行い、計算からも高位電子状態からの“遅いイオン化”を支持できる結果が得られ始めた。③ カチオン-電子間距離の見積もりについては、開発したソフトウエアをも用いた解析から、2~4 nm程度の初期対間距離とその分布関数が得られている。また④の収率の決定については、本研究では過渡吸収スペクトルから収率を決定する必用がある。特に励起状態に対しては、励起体積中の全ての基底状態分子を完全に励起状態にポンプすることで、その分子吸光係数を正確に決定できており、今後の研究展開に対する参照データが得られた。⑤ 電子放出分子および捕捉分子の開拓については、現在、分子の合成を含めて検討しており、2022年度には、5-10分子系の測定を行う予定となっている。以上のように、最初の年次計画に沿って研究が進捗している。
|
Strategy for Future Research Activity |
① 低エネルギーでイオン化を可能とする特異電子励起状態については、現在までの実験および理論的な研究の結果から、Rydberg状態の寄与が強く示唆されている。実験的には、他のいくつかのヘテロ芳香環化合物のイオン化ダイナミクスを測定し “遅いイオン化過程”の存在を確認する。また、カチオンラジカルの電子励起状態に対しては計算手法を用いて、スピン密度に関する知見を明らかにし、N近傍に局在したカチオンのエネルギーレベルと“遅いイオン化過程”の相関を明らかにする。② については、フェムト秒からマイクロ秒に至るダイナミクスの解明から、溶媒和前の電子と溶質の反応、溶媒和後の電子と溶質の反応、アニオンラジカルと溶質の反応などを実験的に明らかにしながら、電荷シフト過程のダイナミクスを確立する。③については、カチオン-電子対の再結合ダイナミクスの測定と解析に加えて、他の溶質を用いたスカベンジ反応も利用し生成直後のカチオン-電子間距離を見積もる。またイオン生成収率の励起波長依存性やカチオンの生成ダイナミクスと合わせて解析することで、“電位が高く再結合速度の小さい電荷分離状態を高速に生成可能な特異電子状態”の特性を明らかにする。④の収率の決定については、上述のように過渡吸収スペクトルの励起光強度依存性から、正確な分子吸光係数に基づき収率を決定する。⑤ 電子放出分子および捕捉分子の開拓については、上述のように、現在、分子の合成を含めて検討しており、5-10分子系の測定を行い、今後の開発方針を絞る。 以上のように、具体的な方針が得られており、これらの計画に沿って研究を実施する予定である。
|
Research Products
(9 results)