2022 Fiscal Year Annual Research Report
Investigating the shape of reactive potential energy surfaces using ultrafast coherent vibrational spectroscopy
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21H01895
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
倉持 光 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 准教授 (40709367)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超高速分光 / 電子励起状態 / 非線形分光 / コヒーレンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、電子励起状態にある分子の振動モード間のカップリングを選択的に観測する、共鳴2次元インパルシブ誘導ラマン分光(2D-ISRS)装置の開発を進めた。われわれは2019年に共鳴2D-ISRSの応用を初めて報告したが、この手法は5次の非線形分光であるが故に得られる信号は非常に弱く、また3つの極短パルスを用い、その間の2つの遅延時間をステップ掃引しながら行う、極めて長い積算時間を要する実験であるため、その広い応用は困難であると考えられていた。そこで、われわれは、2つの遅延時間のうちひとつを連続的に動かしながら絶えず信号取得を行う、高速掃引型の共鳴2D-ISRS装置を開発した。ステップ掃引型の測定ではステージ移動中には測定が行われないため測定時間に無駄が生じるが、高速掃引型の場合は全てのレーザーショットを有効に利用することで効率的にデータを取得することができる。また、高速掃引による測定は長周期で起こるレーザーの強度揺らぎによるノイズを低減できることから、測定が長時間に渡る2D-ISRSにおいて特に強力である。実際に、われわれは時間領域ラマン測定(2パルスを用いたポンプ-プローブ分光)を行い、同じ測定時間内において、高速掃引型測定によりフーリエパワースペクトル換算でステップ掃引型測定の10倍の信号雑音比を達成した。本装置を用いて、一重項励起子分裂を示す典型分子であるTIPS-pentaceneを対象とする励起状態共鳴2D-ISRS測定を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、300~1300 nm領域でサブ10 fsパルスを発生可能な波長可変光源、10 fs時間分解吸収・ラマン分光装置、および遅延時間の高速掃引に基づく共鳴2D-ISRS装置の開発を完了し、その運用を開始した。特に、TIPS-pentacene溶液に対して予備的な2D-ISRS測定を行い、極めて高い信号雑音比で2次元ラマンスペクトルを取得可能であることを確認したとともに、振動モード間のカップリングを示唆する多くのクロスピークを観測した。今後、多様な超高速光反応系に対してこれらの測定を適用し、本研究課題の目標である、反応を決定づける電子・構造ダイナミクスの観測と解明に取り組む。以上のように装置開発・実験ともに計画通りに進行していることから、本研究課題は現時点でおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、本研究課題を遂行する上で必要な、ほぼ全ての光源・分光装置の開発を完了した。今後は、これらを機能性複雑分子系の超高速光反応ダイナミクス計測に応用する。特に、これまでに予備的なデータが得られているTIPS-pentacene溶液の2D-ISRS測定に関してさらに実験を進め、クロスピークの強度パターンや濃度依存性などを精査し、理論によるシミュレーションと比較しながらデータの詳細な解析を進める。また、これまで計測は全て溶液系で行ってきたが、実際に一重項励起子分裂を起こす薄膜試料に対しても測定を行う。そのために必要な近赤外極短パルス光源、検出器についても準備が整っている。溶液・薄膜から得られるデータをもとに、一重項励起子分裂を駆動する電子・振動ダイナミクスと、鍵となる振動モード間のカップリングに関する包括的理解の取得を目指す。
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