2021 Fiscal Year Annual Research Report
Unusual mass transport through nanochannels enabled by inner wall chemical modification
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21H01903
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 喜光 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00531071)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フルオラスナノチューブ / 超分子ポリマー / 水透過 / 脱塩 / 水処理膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では、これまで注目されてこなかったナノチャネルの内壁の化学構造に注目し、それによって生み出される新しい流体の「流れ」の学理を構築し、高効率物質輸送、選択的分離へと繋げることを目的としている。申請者はこれまでフッ素化された内腔をもつ大環状化合物の1次元集合化によるフルオラスナノチャネルの開発をし、これが最も早く水を透過するナノチャネルであることを明らかとしてきた。これはナノチャネルの内壁が内部を流れる流体に大きな影響を与えることを示した端的な例である。本申請研究では、この研究で得られた知見を生かし、ナノチャネル内壁の化学修飾による高効率な水輸送を実現することを目指す。本研究は、古典的な学問である流体力学に対して化学の視点から新しい「流れ」の実現を目指すものであり、同時に超高効率膜分離への応用の基礎を与える研究である。 初年度である2021年度は、内壁の構造が異なる新規フルオラス大環状化合物を合成し、シリーズ化したフルオラスナノチャネルの水透過実験及び脱塩能を検討した。その結果、フッ素密度が低い新規フルオラス大環状化合物の合成に成功し、内径及びフッ素密度の異なる合計4種類のフルオラスナノチャネルが出揃った。これらの水透過能及び脱塩能の検討を行ったところ、すべてのナノチャネルにおいてこれまで報告されてきたどのナノチャネルよりも高い水透過能が観測された。驚くべきことに、塩を構成するナトリウムイオンや塩化物イオンの水和サイズ(いずれも直径0.66 nm)よりも大きなポアサイズを持っているにも関わらず内径0.9 nmや1.5 nmのフルオラスナノチャネルにおいてはほぼ100%の脱塩能を示した。過去比類ない高速水透過能を有していながら脱塩能を併せ持つナノチャネルは次世代水処理膜の候補物質として非常に有用であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高速水透過に関してはすでに明らかになっていた結果であった。一方で脱塩能に関しては当初全く期待していなかった性質である。なぜなら、脱塩を達成するには水和イオンよりも小さいポアサイズが必要であるとこれまで考えられてきたからである。本研究で用いるフルオラスナノチューブは最も小さいものでも内径が0.9 nmあり、水和イオンのサイズはこれよりも小さい。しかしながら実験結果から、0.9 nmのポアサイズを持っているナノチューブであってもほぼ完全な脱塩能を有していることが明らかとなった。その理由は、フッ素原子で内壁が覆われていることによってチャネル内部が静電的に負に帯電したナノ空間を形成しているためであると考えている。その結果負に帯電したイオンが静電反発により透過できない。脱塩の場合、一方のイオンが透過できなければ電気的中世条件を保つためにもう一方の対イオンも透過できないため、結果として高い脱塩能が実現したと考えている。この現象はフッ素で覆われた表面の新しい効果であり、今後の脱塩膜の設計指針となると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本フルオラスナノチャネルを脱塩膜に展開する方向で研究を進めていきたいと考えている。そのためにはまずフルオラス大環状化合物の収率向上の検討を行う。さらに、大環状化合物に液晶性を付与出来る側鎖を導入することでカラムナー液晶とし、電場を使ったチャネルの配向制御を検討する計画である。配向制御の後に側鎖を重合することで膜を得る計画である。
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