2021 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of the interaction between weak electron pairs based on the creation of multi-radical molecules
Project/Area Number |
21H01918
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
久保 孝史 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60324745)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 雅由 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (80252568) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 弱い電子対 / 一重項ビラジカル / 共役 / フルオレニル / マルチラジカル / フェナレニル |
Outline of Annual Research Achievements |
一重項ビラジカル状態、すなわち電子が弱く対形成した状態は、閉殻性と開殻性が共存する特殊な電子構造を有している。その弱い電子対同士が相互作用しあう(=共役する)分子系は、閉殻と開殻の共存性の多重化に伴う特異な性質を示すことが期待できる。本研究では、①弱い電子対の形成が可能なラジカル種を多数配置した分子系(=マルチラジカル系)を新たに合成し、②弱い電子対の共役を分子構造と電子構造の観点から詳細に明らかにし、③その特殊な電子状態に起因する特徴的な物性・機能性を見出すことで、「弱い電子対が共役した系の物質科学」を確立することを目的とする。本研究では、申請者の実験研究(新規化合物の合成とその物性評価)と研究分担者の理論研究(高精度量子化学計算を用いた解析)という相補的アプローチによって、実験的検証がいまだ不十分な弱い電子対の共役という概念を確立することを目指す。 本年度は弱い電子対が共役する分子を合成するという目標を立てた。そのためのモデル分子としてフルオレニルラジカルが環状に連結された[N]cyclo-1,8-fluorenylを設定し、実際に市販化合物から5段階で、目的化合物の前駆体となる大環状のフルオレン化合物を得た。カラムクロマトグラフィーを用いて三量体~八量体の環状化合物を分離精製し、これらの化合物のうち三量体、四量体、六量体の構造を単結晶X線構造解析により決定した。得られた三種の環状化合物をBuLiによりマルチアニオン種へと誘導し、その後2,3-dichloro-5,6-dicyanobenzoquinone(DDQ)を用いてアニオン種を電子酸化した。その結果、四量体は分子内で単結合の形成が起き、高ひずみのキラル化合物を与えることが分かった。さらに、この高ひずみ化合物は、内部量子収率100%の紫外発光体として振る舞うことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は弱い電子対が共役する分子を合成するという目標を立てた。そのためのモデル分子としてフルオレニルラジカルが環状に連結された[N]cyclo-1,8-fluorenylを設定した。実際に市販化合物から3段階で1,8-ジブロモ-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレンへと導いた。その後、Ni(COD)2を用いてカップリングさせ、大環状のフルオレン化合物を得た。カラムクロマトグラフィーを用いて、三量体~八量体の環状化合物を分離精製した。これらの化合物のうち、三量体、四量体、六量体の構造を単結晶X線構造解析により決定した。得られた三種の環状化合物をBuLiによりマルチアニオン種へと誘導し、その後2,3-dichloro-5,6-dicyanobenzoquinone(DDQ)を用いてアニオン種を電子酸化した。 電子酸化を行ったところ、四量体はフルオレン環同士が分子内で単結合を形成した高ひずみキラル化合物を与えることが分かった。また、単結合体をDDQで脱水素したところ、単結合が二重結合に変化した高ひずみキラル化合物を与えることも分かった。これらの化合物は全て単結晶X線構造解析により構造を決定した。また、これらの化合物の発光特性を調べたところ、環状フルオレン体は内部量子収率100%の紫外発光体として振る舞うことが分かった。その一方で、剛直な構造を有する単結合体は全く発光がみられなかった。 六量体アニオン種の電子酸化では、分子内で二つの単結合が形成された二種類の高ひずみ化合物が得られた。しかし、メビウス共役のトポロジーを有する三つの単結合が形成された化合物は、全く得られなかった。 以上のように、モデル分子の前駆体の合成に成功し、さらには当初の計画になかった環サイズの異なる化合物の単離にも成功した。特に環状四量体は、非常に優れた光学特性を有することも明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
【弱い電子対が共役する分子の合成】昨年度に続き、今年度も研究目的を達成するための化合物合成を精力的に行う。大環状フルオレニル化合物のラジカル発生の条件検討を行い、弱い電子対が共役する分子を合成する。また、同時にフェナレニルラジカルが分子内で弱く相互作用する分子の合成にも着手する。 【弱い電子対の共役に特徴づけられる分子構造と電子構造の解明】電子が弱く相互作用する系では、電子雲の柔らかさ(=分極しやすい性質)と開殻性(=ラジカル的な性質)に起因する性質が現れるはずである。それらの性質が、分子構造と電子構造にどのように反映されるかを解明する。得られたマルチラジカル体の分子構造は、X線構造解析により決定する。さらに、そのX線散乱情報を基に高精度の電子密度解析を行い、共役の有無を確かめる。また、マルチラジカル体の電子構造は、電子吸収分光、電子スピン共鳴分光、サイクリックボルタンメトリーなどの各種物性測定手法を組み合わせて明らかにする。実験で得られた結果の理論的解釈については多参照摂動法やスピンフリップ時間依存密度汎関数法などの高度な技術と経験を必要とする高精度量子化学計算法を用いて、基底状態や励起状態に関する物理量を算出し、様々な現象の理解に役立てる。 【弱い電子対の共役に起因する特徴的な物性・機能性の探索】通常の共役との違いを判断する指標として、芳香族性や反芳香族性に注目する。これらは環状共役系における電子の非局在性や波動関数の位相に関係する性質であるため、違いが明確になりやすい。また、弱い電子対に由来する開殻性についても注目する。弱い電子対は比較的低エネルギーで対開裂すると予想されることから、ラジカル的な性質が顕在化しやすいと予想される。一方、柔らかい電子系によく見られる二光子吸収やシングレットフィッションなどの特殊な性質も明らかにする。
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Research Products
(9 results)