2021 Fiscal Year Annual Research Report
多孔質構造の制御を基盤とする拡散律速型バイオセンシング
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21H01961
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
北隅 優希 京都大学, 農学研究科, 助教 (00579302)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白井 理 京都大学, 農学研究科, 教授 (40355011)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 参照電極 / 分子内電子伝達 / 酵素電極反応 / 酸素溶解速度 |
Outline of Annual Research Achievements |
バイオセンサーの改良のためには、酵素内部の電子移動、酵素電極間の電子移動について精査することが重要である。本年度はバイオセンサーの改良を目指しながら種々の検討を行い以下のような成果を得た。 気体の液体への溶解速度は気液反応解析する上で重要な物理量であるが、溶解と拡散が直列となった反応プロセスのため、両者の分離は困難である。本研究では気泡付着型電極という新奇な電極反応系を構築することで溶解と拡散の分離が可能になることをシミュレーションにより見出した。そしてその実証として、酸素溶解速度の決定を行った。そのために多孔質金電極表面に酸素還元活性の高い酵素を吸着させることで、きわめて早い酸素還元を実現した。その酵素機能電極表面に酸素気泡を付着させて酸素還元電流を測定することで、気泡からの酸素の溶解と拡散を分離して評価した。 酢酸菌由来のアルコール脱水素酵素が金電極表面において直接電子移動型の酵素電極反応を実現可能であることを見出した。そして、その酵素電極反応を精査したところ、酵素電極反応の特性がシアン化物イオンの共存によって大きく変化することを見出した。酵素内部の電子移動について精査したところ、電極に電子授受しているヘムcはシアン化物イオンに対して感受性がなく、内部にシアン化物イオン感受性のヘムを含んでいることが明らかになった。 バイオセンサーでしばしば銀塩化銀ペーストを利用した参照電極が利用されるが、溶出した銀イオンによる酵素の活性低下に関する定量的な検討はなされていない。ビリルビンオキシダーゼの直接電子移動型酵素電極反応を追跡することで、銀イオンによる酵素活性低下の速度論的解析を行った。本酵素に対する銀イオンの影響は事実上一次反応とみなして解析できることが明らかとなり、ハロゲン化物イオンの共存による銀イオンの溶出抑制が酵素活性保持において有効であることを実験的に明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の研究計画として挙げた、制御された多孔質構造の系統的な検討に関して、分散剤の共存しない無修飾金ナノ粒子の積層構造の作成、金ナノ粒子積層構造の陽極酸化によるさらなる多孔質化、多孔質構造を持つ樹脂表面の金メッキによる多孔質金電極の作成などを検討した。その結果、多孔質電極内に集積した基質の電極反応に基づく追跡、といった多孔質電極を用いる新奇なバイオセンシングの手掛かりとなる現象を見出したものの、安定して再現の良い多孔質構造を作製するのが困難であり系統的な検討という観点では難航している。 一方で、気泡付着多孔質電極を利用したガス状基質の電極反応に基づく溶解速度測定は、酵素修飾電極に限定されるものではない。様々なガス状基質について、また、様々な電解質溶液についてガスの溶解速度が簡便に測定可能であることから、これは燃料電池一般の研究においても活用可能な汎用的手法といえ、本研究の大きな成果といえる。また、酵素電極反応における律速段階の中心は通常は酵素内電子移動あるいは酵素反応であり、電極表面における酵素の特性評価は極めて重要である。電気化学バイオセンサーにおいて必ず利用される参照電極の溶出物が酵素活性に及ぼす影響を定量的に評価したこと、また電極表面における酵素内電子移動経路を明らかにできたことは大きな収穫といえる。 これらの成果を鑑みて、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は多孔質電極間の系統的な検討を目指してさらなる検討を続ける。引き続きさまざまな粒径をもつ材料、金ナノ粒子,炭素微粒子、ラテックス粒子、などを電極表面に積層し、電極表面に多孔質構造を構築する。多孔質構造は、電子顕微鏡観察により高精度の形態観察を行う。多孔質電極中の物質輸送は,回転電極装置を用いて評価する。回転電極の表面に微粒子を積層して多孔質電極を構築し様々な電気化学測定を実施する。特に,多孔質電極表面と電極表面の特性の分離を実現する。反応を分離には、事前に多孔質材料表面を修飾することによる表面特性の分離を行う。特性の分離により,多孔質電極内部における物質輸送をより厳密に評価することが可能である。電極表面の特性の分離を実現する手段として,酵素電極反応にそれぞれに,過剰な触媒活性を付与することを予定している。 構造の系統的な制御が困難である場合には、電子顕微鏡観察された構造をもとに解析モデルを構築して内部の物質輸送の解析を行い、溶液中の物質輸送の諸特性を取り入れることで,多孔質電極中の物質輸送の定量的な解析を実現する。 多孔質材料表面における酵素の配向制御の確立。そのために、酵素の立体構造を明らかにし、その表面特性の解明を進める。また、酵素内部のコファクターの電位決定及び空間座標の特定を行うことで酵素内電子伝達経路の解明を行う。そして、化学修飾によって電極表面の特性を制御し、酵素表面との相互作用を利用することでの酵素の配向制御を実現する。酵素の配向に関する評価は、直接電子移動型酵素電極反応の触媒電流を解析する際に酵素の配向に関するパラメータを導入することで実施する。
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Research Products
(10 results)