2022 Fiscal Year Annual Research Report
Modulation of optoelectronic properties of conjugated polymers containing hyper valent heavy elements
Project/Area Number |
21H02001
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 一生 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (90435660)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 共役系高分子 / 超原子価 / 発光 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は最近、14族高周期元素が超原子価状態でπ共役系分子の最高占有軌道(HOMO)上昇と最低非占軌道(LUMO)下降を同時に起こす(同時異方向摂動効果)という新しい狭エネルギーギャップ化の機構を見出した。本研究では、この効果を共役系高分子の主鎖共役に適用し、そこから得られる新物性の体系的理解のために学理を探究する。具体的には、安定性の高い超原子価Sn錯体を初年度に導入し、共役系伸長に伴う発光特性の変化を評価した。この知見に立脚し、本年度より他の元素も視野に入れ共役系高分子を合成し、光・電子物性の調査と、発光材料への応用を図った。本年度は、超原子価元素と主鎖π共役が醸し出すユニークな光・電子物性を評価しつつ、近赤外発光性高分子、ベイポクロミズム発光性高分子フィルムを作製し発光材料について研究を展開した。 まず、元素が違う錯体としてSnの代わりにGe錯体の合成を行った。光学測定の結果、錯体から近赤外発光性が確認された。BやSn錯体の発光特性と比較した結果、これらの錯体よりも長波長側に発光が得られた。X線結晶構造解析の結果、リガンド部分の構造における平面性が向上しており、電子共役系が伸長したと説明できた。次にベイポクロミズム特性を重点的に調べた。配位数変化による摂動効果の強度変化を系統的に調べた。また、その知見から結合の大小を予測し、溶媒蒸気のセンシングが可能となることを示した。超原子価スズ錯体のベイポクロミズム発光において、超原子価元素-溶媒分子間の結合エネルギーが大きい場合に摂動効果が強まり、発光色変化の大きさに反映する傾向が得られた。詳細を調べるため、合成と光学測定を行った。 Geという異なる元素種においても超原子価を形成させることに成功し、さらに光学特性の結果より、元素により異なる光学特性を確認することができたことから、目標を達成できたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ゲルマニウム(Ge)は炭素と同じ14族元素であるが、超原子価錯体を形成することが知られている。五配位構造を形成したゲルマニウム錯体は、ケイ素錯体やスズ錯体とは異なる電子状態・発光特性を有することが判明している。しかし、ゲルマニウムの超原子価錯体が示す発光特性を詳しく調べた報告例は非常に少ない。そこでまず、研究計画当初からの予定通り、元素が違う錯体としてSnの代わりにGe錯体の合成を行った。Snよりも不安体で、精製の困難さが予想されたが、純度の高い素材を得ることができた。 上記で得られたGe錯体を用い、光学測定の結果、錯体から近赤外発光性が確認された。BやSn錯体の発光特性と比較した結果、これらの錯体よりも長波長側に発光が得られた。X線結晶構造解析の結果、リガンド部分の構造における平面性が向上しており、電子共役系が伸長したと説明できた。 次に高分子の合成と光学測定の評価を進めた。ドナー・アクセプター型の共役系高分子であり、電荷移動(CT(性の発光が確認できた。クロロホルム溶液中では吸収スペクトルと発光スペクトルが得られた。共役の拡張による、吸収波長と発光波長の長波長化が見られた。また、今回合成した錯体の中では最も長波長領域で発光したにもかかわらず、最も高い発光量子収率を示した。この性能の向上は、共役の拡張によるkrの増加と、ポリマー化による化合物の剛直化に由来する。このことから、ゲルマニウムーアゾベンゼン錯体において、ポリマー化は優れた発光材料を創出するための有用な手段であるといえる。 以上のことから、Snとは異なる錯体を合成し、実際に様々な有用な物性を得ることができた。以上のことから、当初の予定となる作業を行い、目的の結果を得た。さらに想定外の結果も得たことから、本年度は当初の計画より進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、Pb、Bi、Inなど他の高周期元素で合成を行い摂動効果の一般性に関する基礎的知見を収集する。光吸収・発光帯の長波長側へのシフト幅を見積もることと、電気化学計測と量子化学計算により狭エネルギーギャップ化を確認し、摂動効果を数値化する。LUMOの引き下げ効果しかないホウ素錯体と比較し、HOMOの上昇も加えた超原子価元素でより狭いギャップ化が可能であることを示す。また、共重合体や置換基効果で、800 nm以上で吸収・900 nm以上で発光する材料の創出を図る。 次に、摂動効果を動的に発現可能であることと、既存の問題解決に役立つことを示す。従来のメカノクロミズム発光材料は、結晶性化合物でありフィルム化が困難である。この問題の解決のために、無溶媒固相反応による錯体形成(図4)を利用し、メカノクロミズム発光性フィルムの合成を行う。具体的には、予備検討から超原子価形成に必要なNの近傍にOHを導入すると励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)による発光が得られることが分かったことから、この高分子を基質とし、固相反応で超原子価錯体を形成させることで発光色変化を導出する。収率や構造、ボールミルで印可する力を調節し、反応性を精査する。また、固相反応性の違いを利用して力の強度の識別を行う。さらに、既存の系は応力印可後の発光色素の環境は分からず、色変化は偶然に依っていた。本研究では前後はESIPTと錯体の電子状態であることから、発光色変化を計算により予測し、フィルム化以外の本研究戦略の優位性を示す。 最後に、配位数変化による摂動効果の強度変化を系統的に調べることと、その知見から結合の大小を予測し、溶媒蒸気のセンシングが可能となることを示す。超原子価元素-溶媒分子間の結合エネルギーが大きい場合に摂動効果が強まり、発光色変化の大きさに反映する傾向が得られた。詳細を調べるため合成と光学測定を行う。
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