2021 Fiscal Year Annual Research Report
電子スピン選択的な励起子解離による革新的有機光電変換素子の創製
Project/Area Number |
21H02015
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中野谷 一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90633412)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 励起子解離 / 自発配向分極 / 励起スピン状態 / 励起子解離エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終目標は、有機分子系において生成される電荷移動(CT)型励起子に着目し、励起子解離過程における励起スピン状態選択性を実証することで、逆電子移動損失ゼロという革新的な光電変換素子を実現することである。 R3年度においては、熱活性化遅延蛍光(TADF)分子である2,4,5,6-tetra(9H-carbazol-9-yl)iso-phthalonitrile (4CzIPN)、1,2,4,5-tetrakis(carbazol-9-yl)-3,6-dicyanobenzene (4CzTPN)をモデル化合物として、薄膜中での電荷生成機構の解明、および励起スピン状態が励起子解離過程に及ぼす影響について研究を実施した。薄膜中での電荷生成機構の解明に関しては、光電子顕微鏡を検出器とする二光子光電子分光を用いた時間分解光電子顕微鏡(TR-PEEM)により、TADF分子膜中での電荷生成の過渡的な検出に成功した(Advanced Optical Materials, 9, 2100619, 2021)。また励起スピン状態が励起子解離に及ぼす影響に関する研究では、新たに開発した電場変調型過渡発光測定装置を用い、各種TADF分子をドーピングした共蒸着薄膜を試料として電場変調型過渡発光測定を実施した。その結果、分子内TADFを示す4CzIPN薄膜では、励起一重項準位からではなく、励起三重項準位から優先的に励起子解離が進行している事実を明らかとした(Science Advances, 8, abj9188, 2022)。これは、励起三重項状態の励起子寿命が励起一重項状態よりも極めて長いとともに、その励起子解離エネルギーが同程度であるためと理解できる。この結果は、従来は電荷損失の原因とされていた励起三重項状態が、本質的には励起子解離に対して有利であることを示す結果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、CT型励起子の解離過程における励起スピン状態の役割など、有機分子系における一連の励起子失活過程と励起スピン状態の関係を具に明らかにし、励起スピン科学の学理を深化させるとともに、新たな価値を有する有機エレクトロニクスデバイスを創出することを目指している。R3年度においては、TR-PEEM測定により、永久双極子モーメントを有するTADF分子からなる薄膜において、光励起により生成したCT励起子から自発的に励起子解離が進行し、薄膜中で電荷が生成している過渡的挙動を直接測定することに成功した(Advanced Optical Materials, 9, 2100619, 2021)。また新たに開発した電場変調型過渡発光測定装置を用い、各種TADF分子をドーピングした共蒸着薄膜を試料として電場変調型過渡発光測定を実施した結果、分子内TADFを示す4CzIPN薄膜では、励起一重項準位からではなく、励起三重項準位から優先的に励起子解離が進行している事実を明らかとした(Science Advances, 8, abj9188, 2022)。以上の研究進捗状況より、本年度までの研究進捗状況は「当初の計画以上に進展している」と自己判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
R3年度実施の研究を通し、以下二つの重要な知見を得た。1)分極性薄膜中では、光励起により生成した励起子が自発的に解離していること。2)励起子解離は励起スピン三重項状態から効率的に進行していること。R3年度実施の研究で着目した有機分子系は、分子内CTを形成するTADF分子であった。しかし、実際に広く研究されている有機光電変換素子は、電子ドナー分子と電子アクセプター分子界面で形成される分子間CT状態を利用している。そこでR4年度の研究ではR3年度で得られた知見を基盤として、TADF特性を示す分子間エキシプレックス材料系に焦点をあて、その励起子解離過程に対する励起スピン状態の役割を詳細に検討する計画である。特に、分子間CT励起状態の励起子解離エネルギーは、分子内CT状態と比較して小さいと予想されるため、詳細な電場変調型過渡発光測定を実施し、その励起子解離ダイナミクスを解明することを目指す。また、R3年度実施の研究を通して、励起スピン三重項状態が活性な薄膜中では生成した電荷が安定に存在できることを示す結果を得た。これは、有機薄膜中での電荷寿命が従来の予想よりも格段に長いという事実を暗示している。そこでR4年度は、三重項活性な薄膜中における電荷寿命測定を実施する計画である。
|