2021 Fiscal Year Annual Research Report
Diversity of coenzyme Q biosynthetic pathways
Project/Area Number |
21H02117
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
川向 誠 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 教授 (70186138)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西田 郁久 新潟大学, 日本酒学センター, 特任助教 (20784531)
中澤 昌美 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (90343417)
戒能 智宏 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (90541706)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | コエンザイムQ / ユビキノン / 分裂酵母 / PHB |
Outline of Annual Research Achievements |
コエンザイムQ(CoQ)はほぼすべての生物において、電子伝達系の必須成分としてエネルギー産生に必須な機能を果たすと同時に、各種酵素の補酵素として働いている。しかしながら、その生合成経路が完全には解明されていないのが現状である。これまでにヒトと同じCoQ10を合成する分裂酵母のCoQ生合成の研究を推進してきたところ、その大筋はヒトの生合成においても保存されていた。分裂酵母のCoQ生合成に関わる遺伝子の11種類の欠損株にヒトの相当性遺伝子を発現させて、その機能性が相補されることで、保存性の高さを証明してきた。一方で、相補能が弱い遺伝子や、単独では機能しない遺伝子などが存在し、全てに共通性があるわけではなかった。これらの一連の研究から、当初考えていたよりも多くの因子が関わることがわかってきた。本研究では、CoQ生合成の多様性を理解し、そこで得られた知見をヒトのCoQ10合成の理解へ繋げ、さらにCoQ生合成に関連する病気の理解へと発展させることを大きな目的としている。 CoQ生合成は3つの段階に分けて考えることができる。1つ目は、CoQのイソプレノイド側鎖を合成する経路、2つ目はキノン骨格の前駆体となるパラヒドロキシ安息香酸の合成経路、3つ目はプレニル化された PHBが水酸化やメチル化などを経てキノン骨格へと修飾される反応である。1つ目のイソプレノイド側鎖を合成する経路はほぼ解明された段階にある。2つ目の経路は、一部しか解明されていない。3つ目は重要な脱炭酸反応がまだ解明されていない。これらの生合成を理解するために遺伝学的、生化学的実験手法を駆使して研究を進めている。酵母において発見した結果をヒトの病気の原因の理解へと繋げていくことは、人類の健康を維持するために SDGsの視点からも重要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに分裂酵母を中心に CoQ生合成の解析を進めてきた中で、大きく3つの課題が残っている。1つ目は、キノン骨格の前駆体になるパラヒドロキシ安息香酸(PHB)を合成する反応経路の詳細で、これに関してはまだ全体像の把握には至っていないが、本研究での進展が見られた。2つ目はプレニル化PHBがキノン骨格へと形成される脱炭酸反応の酵素で、これに関する研究を進めている。そして3つ目はPHB以外の前駆体としてのパラアミノ安息香酸(PABA)を介した生合成経路である。分裂酵母ではPABA前駆体として CoQ生合成に利用されることは証明したが、ヒトの場合はPABAがCoQ生合成に使用されているという証明はされていない。そこで、分裂酵母の coq2遺伝子をヒトのCOQ2遺伝子に置き換えた酵母株で、PABAが利用されるかどうかを試験したところ、分裂酵母でのPABA由来のCoQ生合成を確認した。 一連の課題を解決するために、分裂酵母の3,400遺伝子が独立に破壊されている遺伝子破壊株ライブラリーの中から、その遺伝子産物がミトコンドリアへ局在する400株についてCoQ量を全て定量した。既知の遺伝子を除き、著しくCoQ合成が低下している株を複数株発見することができた。その中で、これまでに報告がない新規の遺伝子を coq11, coq12と命名し、解析を進めた。分裂酵母のcoq11破壊株およびcoq12破壊株はいずれも野生株のCoQ合成量の5%程度であったことから、これらの遺伝子はCoQ合成に必須ではないが、重要な働きをもつことがわかった。coq11破壊株では前駆体のPHBを添加してもCoQ合成が回復しないのに対して、coq12破壊株では、PHBの添加によりCoQ合成が回復したことから、Coq12がPHBの前駆体合成に関わることが示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後推進する研究として、まずcoq11やcoq12破壊株において、さまざまな前駆体あるいは類縁体の化合物を添加して、それらが CoQ合成に利用されるかを調べる。そこからcoq11やcoq12の反応がどの部分で欠損しているかを推定し、それらの機能を調べていく。 Coq12タンパク質を大腸菌や分裂酵母で発現させ、タンパク質を精製する。Coq12の一次配列の構造からは、酸化還元能が推定される。そこで、Coq12タンパク質のNADHの酸化還元酵素活性を測定する。続いて、Coq11やCoq12が、既知のCoQ合成タンパク質(Coq3-Coq9)との相互作用が観察されるかを調べる。特にcoq11やcoq12破壊株において他のCoqタンパク質の安定性がどうなるかを調べる。さらに他にCoQ合成に影響を及ぼす遺伝子がないか、分裂酵母の3,400遺伝子破壊株の中から探索しその機能を調べる。これまでに研究を進めてきた過程で、 pos5と命名した遺伝子がCoQ合成に関わることが判明してきたので、このpos5の機能解析を進める。pos5欠損における前駆体の蓄積やPos5と他の因子との関連性、前駆体の添加によるCoQ合成量への影響、出芽酵母でのPOS5のCoQ生合成への影響などを調べていく。さらに、上記の遺伝子以外の遺伝子欠損株でCoQ合成に影響する分裂酵母株の解析を進め、蓄積してくる前駆体の解析を進め、CoQ合成経路の多様性について研究を推進する。一連の過程で浮かび上がってきたCoQ生合成に関わる遺伝子のホモログが高等生物、とりわけヒトに存在しないかどうかを探索する。ヒトに存在する場合は、その機能の類似性を酵母内で調べ、CoQ合成に普遍的に機能するか知見を蓄積していく。これらの一連の研究が、ヒトのCoQ合成の理解、そしてヒトの健康の維持の理解に繋がると考える。
|
Research Products
(7 results)