2021 Fiscal Year Annual Research Report
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21H02128
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西村 慎一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (30415260)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 膜脂質 / 生理活性化合物 / 化学遺伝学 / ケミカルバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞の内外を仕切り、細胞内をコンパートメント化する生体膜は、重量にして約50%を脂質が占める。脂質は抗生物質や代謝疾患治療薬の標的であることからも、その機能の理解が求められる。ところが、タンパク質とは異なりゲノムに直接コードされていないため、遺伝学的アプローチのみで機能を理解することは難しい。本研究では脂質に作用して特徴的な表現型を示す生理活性化合物に着目し、それらの作用機序を各種のオミクス解析を基盤に解析することで、生体膜脂質の機能の多面性を明らかにする。具体的には4つの項目を推進しており、初年度の研究実績は以下の通りである。 ①ステロールを標的にする海洋天然物セオネラミドを用いたケミカルバイオロジー:セオネラミドを分裂酵母に処理すると細胞末端と分裂面に1,3-β-グルカン合成酵素が集積し、グルカンの異常蓄積が起こる。壁異常個所に集積する30余りのタンパク質情報から、細胞極性に重要な低分子量Gタンパク質Aが活性化されていることを明らかにした。 ②奇数鎖脂肪酸が示す抗真菌活性の分子メカニズム:奇数鎖脂肪酸が分裂酵母において顕著な生育阻害を示し、その際、細胞分裂時に形成される隔壁の形成不全、染色体分配の異常、細胞膜脂質の極性消失をともなう。初年度はこれらの形態変化を詳細に解析することで特定のオルガネラの形態変化が初発の現象である可能性を明らかにした。また、ケミカルゲノミクス解析により検出されている感受性関連遺伝子について、遺伝子破壊株を作製して化合物感受性を検証し、特定の形態変化を示す変異株が薬剤耐性を示すことを見出した。 ③タンパク質細胞内局在を指標としたオミクス解析系の構築:セオネラミド以外の化合物についても小規模な解析を行ったところ、予想外の細胞形態の変化を検出することが可能であることを見出した。 ④新しい生体膜標的型化合物の探索:化合物探索の新しい手法の開発に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では4つの項目の推進を行っており、そのうち、①-③については順調に進んでいる。④については、これまで用いていた化合物・脂質膜間相互作用解析に加えて、より簡便な手法の開発に着手しており、次年度も引き続き継続予定である。ここでは①と②について進捗状況を下記に記載する。 ①セオネラミドが引き起こす細胞壁異常に関わる因子として、細胞壁合成酵素Bgs1、細胞壁合成やアクチン骨格制御などの細胞形態に関連するRho1タンパク質をすでに同定していたが、新たに細胞極性のマスターレギュレーターである低分子量Gタンパク質Aを同定した。これは細胞壁の異常合成個所に集積する30余りのタンパク質の機能情報から導かれた結果である。まず30余りのタンパク質を詳細に解析することで、セオネラミドがアクチン骨格に依存した小胞輸送と、依存しない小胞輸送の両者を活性化することを見出した。両者の活性化の鍵分子がタンパク質Aであり、実際、蛍光タンパク質を用いた解析により、セオネラミドが細胞極性部位でタンパク質Aを一過的に活性化していることを明らかにした。 ②奇数鎖脂肪酸が引き起こす細胞形態の変化を定量的に評価し、また詳細に評価を行うことで、特定の細胞内オルガネラの形態変化が初発の現象であることを明らかにした。すなわち奇数鎖脂肪酸による細胞分裂異常に着目して解析を行ったところ、約半数の細胞は収縮環の形成に重要なMid1タンパク質の欠損株とよく似た形態を示し、また、20%余りの細胞が湾曲した隔壁を持つことが明らかとなった。より詳細に解析を行ったところ、特定の細胞内オルガネラの変形がこれらの原因であることを示唆する結果が得られた。一方で、ケミカルゲノミクス解析で特定された耐性遺伝子について解析すると、多隔壁細胞が奇数鎖脂肪酸に耐性を持つ傾向があることを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果を受けて、各項目について下記を計画している。 ①ステロールを標的にする海洋天然物セオネラミドを用いたケミカルバイオロジー:セオネラミドを分裂酵母に処理すると細胞末端と分裂面に1,3-β-グルカン合成酵素が集積し、グルカンの異常蓄積が起こる。この分子メカニズムを明らかにするため、分裂酵母のタンパク質の細胞内局在データベースを基盤として、セオネラミドにより細胞壁集積部位から排除されるタンパク質を40余り同定している。今後はこれらタンパク質の情報に基づいて、細胞壁異常部位で起こる細胞内イベントを解析し、特にタンパク質Aとの関連を検証する。 ②奇数鎖脂肪酸が示す抗真菌活性の分子メカニズム:分裂酵母に奇数鎖脂肪酸を処理すると、細胞増殖抑制と相関して、様々な特徴的な細胞形態変化が現れる。例えば、細胞分裂時に形成される隔壁の形成不全、染色体分配の異常、細胞膜脂質の極性消失である。さらに特定のオルガネラの形態が顕著に変化することを見出している。本年度はこれら形態変化の上下関係を遺伝学的に検証し、また、オミクス解析の結果を受けた遺伝学的解析を行い、奇数鎖脂肪酸の作用経路を解析する。 ③タンパク質細胞内局在を指標としたオミクス解析系の構築:化合物処理によるタンパク質の細胞内局在変化を網羅的に解析することで、生理活性化合物による見逃されていた生物活性を検出する。 ④新しい生体膜標的型化合物の探索:生体膜とユニークな相互作用を示す生理活性化合物を検出するための検出系の構築と、それを用いた化合物の探索を行う。
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