2021 Fiscal Year Annual Research Report
神経細胞の生存を支えるレトログレードシグナルの解明に関する細胞工学研究
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21H02152
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久恒 辰博 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (10238298)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 邦律 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (20373194)
関 真秀 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任准教授 (90749326)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 神経細胞死制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病などの認知症においては、老人班の蓄積に端を発して神経細胞が変性し、神経細胞死が誘導されることにより神経回路が障害され、認知機能の破綻が進行する。神経細胞死が誘導されるメカニズムを知り、この機構を食い止めるシグナルを特定することができれば、神経の変性が緩和できると考えられる。 本研究では、申請者らが海馬新生ニューロン研究から発見をした神経細胞の生存をサポートする軸索末端から細胞体へ逆行性に伝達されるシグナルをレトログレード生存シグナルと定義し、その正体を明らかにする研究を行った。動物モデル系としては、新生ニューロンの神経伝達(シナプス放出とのそのリサイクリング)を特異的に阻害することができる新生ニューロン特異的テタヌストキシン発現マウスを使用して研究を実施した。また、このモデルマウス系に加えて、アルツハイマー病モデルマウスや、ドーパミンニューロン特異的テタヌストキシン発現マウスを利用した。 これらのモデルマウスのニューロンにおいては、軸索部位におけるシナプス顆粒のターンオーバーに異常がありオートファジーの機構がうまく働かないことも判明し、毒性タンパク質の処理がうまく行かないために、神経細胞の変性が誘導されていることが認められた。神経保護的なグリア細胞の助けを借りて、毒性タンパク質を処理することによって、神経変性に至る過程が食い止められていることも示唆された。 今後神経細胞死を防ぐシグナルを明らかにしていくために、神経細胞ならびにグリア細胞の遺伝子発現動態をシングルセルのレベルで明らかにするために、細胞ソーティングなどを用いた細胞分離手技の開発を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、まず研究モデル系として、成体海馬の新生ニューロンに限り、そのシナプス伝達機能を制御できる遺伝子組み換えマウスを利用して、神経細胞死誘導のメカニズムを探る研究を実施した。新生ニューロンは神経幹細胞より発生し、分化後1週間ほどして幼若ニューロンとなり、3週間ほどで成熟し神経伝達が可能となる。神経伝達を阻害することでレトログレード生存シグナルを遮断することにより、分化後3週間以上の新生ニューロンの生存が阻害されることを突き止めた。 生存シグナルの出発点が後シナプス細胞が放出するBDNFであると想定され、その受容体であるTrkB分子がレトログレードシグナルの正体ではないかと考えられる。この場合、新生ニューロンの軸索末端部分(プレシナプス部位)で、BDNF-TrkB複合体がエンドソーム(ピノサイトーシス(飲作用)により形成される小胞)として細胞内に取り込まれ、いくつかのエンドゾームが結合してオートファゴソームが形成され、軸索内を逆行性に移動して核内において細胞の生存に関わるシグナル伝達系を活性化していると想定される。 新生ニューロン特異的にテタヌストキシンを発現させることは、神経伝達(シナプス顆粒の放出)を抑制することに加えて、VAMP2依存的なオートファゴソームの形成を阻害する作用があることが判明した。一連のレトログレード生存シグナルを複数のポイントで遮断することにより、神経細胞特異的に発現させたテタヌストキシンは神経細胞死を誘導したものと考えられた。 本研究では、研究モデル系として、さらにドーパミンニューロン特異的にテタヌストキシンを発現させる遺伝子操作マウス、ならびに老人班の蓄積を誘導するアルツハイマー病モデルマウスを用いて、神経変性の誘導とその制御に関する研究を実施し、前シナプス部位におけるオートファジー制御の重要性を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
アルツハイマー病などの認知症において、軸索末端においてオートファゴソームの形成が障害されて神経細胞が変性し最終的には細胞死が誘導されてしまうことが見いだされてきた。ヒトにおいて、PICALM遺伝子は、アルツハイマー病のリスク遺伝子であることが知られていたが、このPICALM分子はVAMP2分子と相互作用を持つことでオートファゴソームの形成に関わっていることが、細胞培養実験の結果から見出されていた。つまり、PICALMリスクアレルを持つ者は、軸索末端におけるオートファゴソームの形成に不全があるために、老人斑(アミロイドβペプチドの凝集体)が蓄積しやすく結果的に神経細胞の変性が速く進むと推定された。 本研究において、神経軸索末端におけるオートファゴソームの形成をうまく誘導することができれば、アルツハイマー病における神経細胞死を抑制できる可能性が浮上した。 今後は、遺伝子発現を特異的に制御できるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター系や、神経細胞のシングルセル遺伝子発現解析などを通じて、一連のレトログレード生存シグナルに関わる遺伝子の特定を進める。 マウスモデル系としては、さらにドーパミンニューロン特異的にテタヌストキシンを発現させるドーパミンニューロン特定的テタヌストキシン発現マウス、ならびに老人班の蓄積を誘導できる各種のアルツハイマー病モデルマウスを用いて、神経変性の誘導とその制御に関するシグナル伝達系を明らかにする研究を実施し、神経変性誘導における前シナプス部位のオートファジー脱制御の重要性を調べ上げていく。
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[Presentation] Transgenic blockade of neurotransmitter release in hippocampal newborn neurons leads to impaired cognitive flexibility2021
Author(s)
Haowei Li, 古賀 淳也, 安藤 翔太, 浅井 裕貴, 新谷 哲平, 城村 直寛, 金子 順, 横田 紗弓, 峯 秀人, Qiong Ding, 住吉 晃, 山本 雅, 疋島 圭吾, 田中 和正, Thomas J. McHugh, 久恒 辰博
Organizer
日本神経科学会
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